平成27年度 第46回富山県建築賞受賞作品

審査総評

富山に資する「何か」を念頭に選考しました。あらためてこの何かを見つめると、富山の建築文化を支える人の成長を支援すること、富山の建築が健やかであること、と捉えているように思います。前者は挑戦した結果が完結しないまでも破たんしていない前向きなバランスを評価すること、後者は富山の建築文化の顔としてお手本となる出来栄えを評価すること、と換言できるように思えます。いずれにおいても、統一感があり美しく心地よい感動がなければならないと思います。選考に際して、実現するための見えない努力をどう評価するかに悩むことがありますが、プロセスの結果が作品の出来栄えとして認識できることが重要だと考えます。

今回の一般部門の応募作品を反芻しますと、応募数が例年と比べて少ないというのではなく、ちょっとさみしい感じを受けました。県内には応募していただける作品がもっと存在しているように思えます。応募へのインセンティブが低いのかもしれません。多大なご苦労を経て実現した建築が、「かくあるべし」への「この手があったか」という解答とならなかったように感じて残念でなりません。模範解答には課題に対するなるほどと頷ける結果と調和が求められると思います。とはいえ、今回も模範解答の一つに巡り合えてうれしく感じました。

他方、住宅部門には意欲的なエネルギーを放つ作品から安定した作品まで幅広く応募していただきました。若い建築家から集大成の域に達したと思われる建築家まで、富山の住宅建築をけん引する作品の応募があったと思われます。なかでも、これからを担う若い建築家の応募がとても喜ばしいです。新たな試みを呈示する作品から住宅の意味をより高めたお手本までが見られたといえましょう。富山県の多様な敷地条件や施主の住まい方への要望の高いことを反映しているように思われます。

審査の過程は、部門ごとに一次審査、二次審査と進めました。一般の部の応募数は7件、住宅の部の応募数は13件でした。一次審査では応募図書を閲覧したのち、現地調査の候補作品を選定しました。一般の部は4件、住宅の部は6件を現地調査の候補としました。現地調査では、応募図書では見られない環境との調和・出来栄えを現地にて調査しました。現地調査に次ぐ二次審査では、冒頭に書きました趣旨を踏まえて現地調査結果を参照して、一般の部2件(優秀賞1件、入選1件)住宅の部5件(優秀賞1件、入選4件)を選定しました。

 【審査委員長 秦 正徳】

一般の部

優秀賞 富山県立富山中部高等学校

中部高校_外観s

中部高校_至誠ホールs

所在地
富山市芝園町3-1-26
建築面積
4,679.84m²
延床面積
10,772.05m²
竣工
平成26年3月24日
建築主
富山県知事 石井 隆一
設計者
福見建築設計事務所・鈴木一級建築士事務所JV
施工者
【東校舎】辻建設・林建設JV 【北校舎】近藤建設・前田建設JV 【西校舎】タカノ建設・三由建設JV 【東・西校舎給排水衛生設備 】㈱福山設備工業 【北校舎給排水衛生設備】太閤産業㈱ 【東校舎空調設備】富山空調電設㈱ 【北校舎空調設備】鈴木工業㈱ 【西校舎空調設備】北陸電気工事㈱ 【東校舎電気設備】朝日建設㈱ 【北校舎電気設備】日本海電業㈱ 【西校舎電気設備】㈱米澤電気商会 【武道場】㈱竹原工務店 【武道場電気設備】篠川電設工業㈱ 【渡り廊下】近藤建設㈱ 【外構】松原建設㈱ 【図書館棟外部改修】三由建設㈱

講評

全国公開の設計者選定プロポーザルで大手事務所や著名建築家と競って選ばれた地元事務所の作品です。限られた時間でその優れた成果を分析し尽くせたとは思いませんが、現地審査中に直感したことを記述します。

最初にゲートを潜って中庭に入ることで学校の全体像が把握でき、次に大階段を登り、常に学校の一体感を感じながら上階の各教室へと生徒を導く巧みな動線計画です。大らかに伸びるエントランスゲートは低く抑えられ、威圧感なく生徒を中庭(広場)に迎え入れながらゲート内外の視覚的連続性を保っています。また、広場の特性を分析する時にD/H(depth/height)の数値で説明する場合(シエナのカンポ広場等)がありますが、周囲の建築高さが変化していることで、D/Hが見る方向で違って見える面白さを体験することができました。さらに、教室群が上下・左右に連続する場合、外観意匠が単調になりがちですが、各階廊下に配されたガラスの小スペースにより立面全体にランダム性が付加され、単調さが回避されています。

全体の印象として、大胆な技を連発して注目を集めようという気負ったところがなく、長年の事務所の蓄積を真面目に自然体で表現することから生まれた落ち着きが感じられました。一方で、バランス良く配置されたアクセント的表現や材料の使い方には既視感があり、独創性を見出すことはできませんでした。

【 蜂谷 俊雄 】

入選 南砺市立上平小学校

上平小(外観)

上平小(内観)

所在地
南砺市皆葎1573
建築面積
2,907.08m²
延床面積
5,606.58m²
竣工
平成26年3月17日
建築主
南砺市長 田中 幹夫
設計者
㈱創建築事務所
施工
安達建設・長田組JV

講評

南砺市立上平小学校は世界遺産五箇山を包む同じ山並みの中にあります。二つの小学校の統合を機に住民代表が要望書を作成し、基本設計段階の検討委員会で協議が重ねられました。合掌造りを類推させる木材の積極的な使用が当初から検討され、体育館の木造化が意図されましたが、途中、3階建てとなったことで「木質化」された耐火建築物になりました。

校舎本体も豪雪に対する維持管理の問題から、鉄筋コンクリート構造が採用されました。当初はその構造の外枠に木造の箱が収まる入れ子構造が計画されましたが、種々の制約から木造部分はさらに縮減され、主体構造の内部仕上げにふんだんに地産木材が使われる形になりました。木軸フレームや吹き抜け部分下の格子天井、置床下地の圧縮フローリングは一体になって、表面的な仕上げや装飾のレベルを超え、子供たちが地元の木材の豊かな教育空間の中で育つことができます。豪雪対策が最優先され体育館も校舎も「木造化」は実現されませんでしたが、安全で快適な通学と学習が可能となるように、単純な平面形態と屋根や軒の断面が決定されています。

雪割付き屋根を頂く合掌造りを想起させる3つのトップライトは、体育館の大屋根に付き従って周囲の山並みと連動するアクセントになっています。内部の魅力は写真や図面どおりでしたが、写真だけでは必ずしも周辺環境に調和しているようには思えなかった外部の色彩は、実際には風景に十二分に馴染んでいました。

【松政 貞治 】

住宅の部

優秀賞 House M

House M(外観)

House M(内観)

所在地
富山市堀川小泉町
建築面積
166.25m²
延床面積
199.75m²
竣工
平成25年3月20日
建築主
水野 秀城
設計者
㈲青山建築計画事務所
施工
近藤建設㈱

講評

街中の住宅地にあるこの家のアプローチは、街並みに配慮した植栽、前面板壁のヒノキの柔らかい色合い、玄関ドアへの軽やかな庇、ドア前の足元に壁面の裾から透過する中庭の光と風、これらをバランスよく構築したオープンスペースとなっています。家族はもとよりこの家を訪れる人を暖かく迎え、通りがかる人に好感を与え、街並みの品を高めています。

南向きのドアを入ると中庭の光が差し込む明るい玄関となっています。壁を隔てて右へと続くリビングコーナーには中庭から南の光が開口部全面に広がっています。さらに進むとダイニングコーナー、キッチンコーナーへと続き、ここへは西からの光が差し込むことになります。そこには子供たちの勉強コーナーもあります。奥には寝室が配置されています。リビング・キッチン+・寝室がコの字に配置されたコートハウスとなっているのです。隣家とのプライバシーを保ちつつ陽光の入る構成です。連続したコーナーでの思い思いの家族の様子を互いに感じあえ、絆が高まることでしょう。

トイレと風呂と2階へ繋がるコーナーの奥には明り取りの窓があります。ここから階段のクランクを経て上がると、バルコニーのある明るい子供たちの部屋と屋根ウラを活用した隠れ屋的な主人の書斎へと続きます。2階の室内環境を一台のエアコンで整えるという合理性にも驚きです。光と穏やかな影に包まれた、長く住むことで愛着が醸成される心地よい家となっています。

【秦 正徳 】

入選 願海寺の住居

願海寺の住居 外観

願海寺の住居 内観

所在地
富山市願海寺
建築面積
141.9m²
延床面積
169.74m²
竣工
平成25年10月14日
建築主
土田 孝晴
設計者
中斉拓也建築設計
施工者
米井建設㈱

講評

住宅部門の審査においては、施主要望、敷地条件、総予算などが個々に異なり、建築設計の教科書的一般論では語れない難しさがあります。そこで、施主の夢を実現するプロセスで発揮された提案力・技術力・独創性・執念などに着目して作品評を書いてみました。

2台分の車庫を前提とした住宅の外観には一般的に違和感がありますが、本作品では車庫を分けてスケールダウンを図りながら、道路と住居の緩衝帯に位置する土間空間として扱うことで半屋外的利用が可能なスペースを生み出しています。各所に配された半屋外空間を空間構成全体との関係で見ますと、外土間・内土間・坪庭・テラス等が、外から内へと段階的に空間の質を転換させる要素として、有効に配置されています。

また、外土間→坪庭→渡り廊下→テラス→外庭を見通して見せるトンネル効果の魅力も感じられます。さらに、木材と金属の対比的素材の魅力を引き出すために、各素材を明快かつ独立的に構成することで、見る角度ごとに材質・色彩のコントラストが強調された演出として感じ取れます。この対比的な材料使いは面的表現と線的表現のコントラストにも表れています。一方で、和室と玄関収納の間を仕切る杉板本実型枠のコンクリート打放壁は、部分的に挿入された特異な材質感の魅力はありますが、むしろ自立する象徴的要素として特化した表現にすべきではないかと思いました。

【 蜂谷 俊雄 】

入選 スタジオの家

スタジオの家(外観)

スタジオの家(内観)

所在地
富山市高屋敷
建築面積
68.86m²
延床面積
109.89m²
竣工
平成25年11月1日
建築主
矢地 真也
設計者
一級建築士事務所水野行偉建築設計事務所
施工者
㈲穴田工務店

講評

この家の主人はドラムをたたく…その住まうカタチが、「やぐら」のある箱です。1階のほぼ中心の「やぐら」を、防音の音楽スタジオにするというプランです。「やぐら」内のドラム音は、周囲の生活空間には微かしか聞こえず、その機能とプランがぴったり一致したカタチと言えます。しかも特殊な防音装置ではなく、コンクリートブロックで「やぐら」を囲ったことが、コストダウンをかなえつつ、全体のカジュアルな仕上げにも通じています。 外観は、外壁面より基礎を奥まらせて浮遊感を出し、さらに、四隅に柱の無い「パノラマ窓」と併せて、重くなりがちな箱を軽快に見せています。この細く巡る「パノラマ窓」は、内部から見るとかなり明るく、一日の様々な陽を感じさせる日時計のよう。コンパクトで仕切りの無い空間だからこそ感じられる、遊び心ある演出です。

家全体を緩く繋げている回廊型の生活空間や、木質と色使いの絶妙なバランスは、気どらない居心地の良さを感じさせました。今後、「パノラマ窓」を意識した外観を全体的に整えて、広い外構もどのように計画されて行くのか、個性的な挑戦に期待します。

【 加藤 則子 】

入選 天空を愉しむ家

天空を愉しむ家 外観

天空を愉しむ家 内観

所在地
砺波市太田
建築面積
154.39m²
延床面積
136.78m²
竣工
平成25年12月10日
建築主
平木 春代
設計者
㈱シバタ建築設計事務所
施工者
タカハタ工業㈱

講評

「天空を愉しむ家」は、砺波市太田の集落内にあり、北は、交通量が多く道幅の狭い国道、東西は、集落道路と通路、南は、お隣の住宅が接近した環境にあります。配置は、南側に建物を寄せ、北側の国道から玄関までゆったりした空間を取っています。建物は、平屋建てで、屋根を2寸勾配とし高さを抑え、周囲に樹木を配し、周辺環境にも気を配っていることを感じます。

外観は、ダークブラウンの板張りを基調とし、正面は、平屋で低く水平に伸びた軒の上部に青空が大きく輝き、その下に白木の格子戸と既設の車庫に繋がる雁木の深い軒下の杉板張りの押縁、GL鋼板立平葺きの壁面、窓の縦線が調和しています。格子戸の玄関を入ると土間の先に中庭が繋がり、左に玄関、右にサロンの入口があります。中庭は、5m四方程度で軒が低く、リビングからは、軒で切り取られた空が見え、青空と雲の動き、変化を愉しむことができます。

夜空も星や月がきれいに見えることでしょう。玄関脇の4畳半には、仏壇と床の間が、リビングには、神棚があり、建替え前の住宅の面影が継承されています。リビングの東側は高さが1.5mの掃き出し窓で、通路との境には生垣を設けて、プライバシーを確保しながらも、足元に光を受け、風も中庭とその先の和室に抜ける心地よい環境となっています。「プライバシーを確保しながらも解放感あふれる家づくりを目指した。」との設計者コメントどおりの住宅です。富山らしい伝統と暮らしを残しつつも、現代的で快適な住まいを提案したモデル住宅と言えるのではないかと思います。

【 土肥 義一 】

入選 中川上町の家

中川上町の家_外観

中川上町の家_内観

所在地
高岡市中川上町
建築面積
57.67m²
延床面積
111.55m²
竣工
平成25年9月10日
建築主
京谷 里歌
設計者
堺谷建築一級建築士事務所・DOKO一級建築士事務所
施工者
堺谷建築

講評

「中川上町の家」は高岡市古城公園南側に古くからある住宅地に建てられています。周辺の街並みの中でひときわ映えるファサードには、旧宅の南西側一角とその背後の土地を合わせた極めて細長い敷地の特殊性がうまく意識化されています。金屋町や吉久のように間口の狭い町家がファサードを前面で連続させる歴史的な街並みで、駐車場を表に設けて全体をセットバックすると、連続性は大きく損傷されます。しかし、高岡市の市街地に多く見られるような、木造住居がランダムに隣接する敷地環境の中で、この住宅は周囲に良い刺戟を与えています。

ファサード上部の均整のとれた窓割は内部のリビングの吹き抜けを表出し、夜には天井の化粧垂木を道行く人に垣間見させます。雨水の流れ方を考えてのことだと思いますが、水平になっていない玄関庇の屋根の線が少し気になりました。

一階は玄関から収納や応接間、浴室、トイレを心地よいリズムの廊下が結んでいます。奥の階段を上がると中央手前からキッチンがダイニングとリビングの吹き抜け空間を支配しています。北東側は室外機置場を取りつつプライバシーを確保するためか主寝室と子供部屋が半階分上げられています。ロフトと呼応して断面には変化はできましたが、化粧垂木の続く天井を介しての一体感が少し弱められたように思います。それでも、敷地幅を体感できる柔和な空間は、大きな魅力となっています。

【 松政 貞治 】