平成11年度 第30回富山県建築賞受賞作品

審査総評

入賞作品「新湊市博物館」は、円弧を描いてうねらせた主廊空間を展示空間に沿って外側に配置し、外部へ向かって大きな開口部を規則的にとり、かつこの開口部を外部にしつらえた高低差のある三つの水盤状の池と結びつけることによって、概して閉鎖的になりがちな博物館という建築空間を、変化と開放感のある空間としていることが評価される。高低差をもち円柱状の柱型をつけた円弧状の壁面がぶつかり合い重なりあっている外観の構成は、庄川産の紅石の粉の吹き付けによるサーモン・ピンクの色彩および表面を掻き落としたソフトなテクスチュアとが相まって、親しみ深く快い感覚を醸し出している。屋上パラペット頂部はやや出の深いコーニス状に納めてあり、これが建物に古典的なあるいは歴史的な雰囲気を与えている。それらの造形が一点に集中しているのがエントランス・ホールの空間であり、吹き抜け上部の望楼状のトップライトは、作品にシンボル性を与えると同時に周辺環境に対するランドマーク性を与えることに成功している。細部まで緻密に検討されたデザイン、優れた施工が評価された。また、この作品は隣接する入選作品「道の駅・カモンパーク新湊」との連関において設計されており、その点では二作品の関係性のデザインを評価する観点もあり、その観点からも優れたものがあると認められたが、本賞のこの回ではそれぞれ単体として評価することとなった。

入賞作品「桂湖ビジターセンター」は、RC造の躯体に木構造小屋組を架構した混構造である。その結果、積雪6mに充分耐えうる大空間を一階、二階に確保することに成功している。また、RC造の棟持柱と棟木に米松の登り梁とトラスを組み合わせた構造を顕わしとした二階インテリアは、この地方の伝統的建築、合掌造の優れた再解釈のデザインである。外観は精緻な施工で幾何学的な美しさのある打ち放しコンクリートの壁体と木造雨戸の材質及び色彩の対比が快い。しかし外観の印象を決定つけているのが大屋根のデザインで、基本的には単なる切り妻にすぎないのだが、棟木に大きなむくりを持たせ、妻側を幾分内側に傾けて切り落とし、銅版葺きとして屋根の端部を丸めたことで、芽葺き屋根の柔らかな質感と形態を連想させる効果を生みだしている。これら全体が桂湖周囲の景観と伝統にマッチして新たな魅力を生み出していることが評価された。

入賞作品「富山県水墨美術館」は、L字型平面を持つRC造平屋に瓦葺き寄せ棟大屋根を架構した和風を基調としたデザインで、その形態のシンプルさと大屋根の瓦面の均質で繊細な表情が端正な造形となっていることが評価された。また、展示室をつなぐ主廊空間を外部に面して配置し、全面ガラス張りとし、深い軒の出によって、外部の広い芝生の空間を室内に流入させた造形は、伝統和風の庇空間の再解釈である。インテリアも材質、色彩の種類を押さえ、シンプルであることを目指して成功している。

入選作品「道の駅・カモンパーク新湊」は、先にも触れたが「新湊市博物館」に隣接し、屋根付きの渡り廊下によって連結されている。博物館とは対比的な矩形平面でフラットな建物で、RC造の角柱が7m×7mの正方形グリッドを構成して規則的に立ち、それがデッキプレートにコンクリートを打設した陸屋根を支える論理的には単純な構成である。この単純な構成が視覚的、空間的に単純でなくなるの
は、この柱と陸屋根の間にあって屋根を支える三枚の三角形のリブ付き鋼板の視覚的効果である。いわば柱頭と梁を結合させたこのユニークの構造体が外観にもインテリアにも、ダイナミックな装飾的効果を与えている点は非凡である。これはF・L。ライトの造形を想起させる。また、大きな円筒形トップライトのデザインが陸屋根の単調さを破っている。屋根のパラペットも5層に見せたコーニス状のデザインで、鉄骨部のピンク色とともに博物館との連携性を表現している。こうした構造と装飾、空間造形のユニークな関係性の成功が評価された。

入選作品「富山市民プール」は、50mのメイン・プールと25mのサブ・プールを向かい合わせに配置し、その間の空間をサービスおよびサポート・ファシリティに充て、また、プール使用者の動線と観客の動線を一階、二階に分けた、利用者にとって視覚的にも明快なプランニングが評価された。また、こうした大空間建築はその外観において周囲に圧迫感を与えがちだが、この作品はプール大屋根をむくりを持って建物中央へ高くなるデザインとし、圧迫感を極力抑え周辺環境へ配慮がなされている。また、自然痛風、自然採光、可動ガラス間仕切りによる空調箇所の細分化、プール排水の再利用など、省エネルギーへの配慮も評価された。

入選作品「株式会社日平トヤマ福野第7工場(設計棟)」は、二階、三階の設計室をワンフロア間仕切りなしのオープン・スペースとし、オフィス・ランドスケーピングの手法でデスクを配置する開放的なプランニングだが、建物主軸に対し、平行、直角の配置と、45度をなす配置を組み合わせて、設計空間の等質化を避け、ある程度の分節化を行っている。この空間の開放性は、室中央に設けられた二階、三階を吹き抜け、上部にトップライトを持つ吹き抜け空間によって完成し、この開放感がこの作品全体のモチーフであり、成功している。同時にまた、この吹き抜け空間が各階の空間を二つの大きな部分に分節化している。開放のもたらす快適さと空間の均質性、単調さという矛盾を、開放それ自体の仕方によって解決したところが評価される。また、外観の白い断熱鋼板とブルー・グラスを均整のとれたプロポーションで配した幾何学的な美しい構成、エントランスの大きなガラス開口部は、精緻な施工と相まってデザインを清潔感に満ちたものにしている。

入選作品「大門町改良住宅」は、二階建て3LDK二戸、二階建て3DK二戸、平屋2DK二戸からなる小規模公共集合住宅計画で、これを伝統的木造によって実施したというユニークさが評価された。そのデザインも一階部分の壁を焦げ茶に塗られた杉の南京下見、妻壁と二階部分を漆喰プラスター仕上げの白壁とした対比は、庄川平野に多い伝統的造形に棹さすものであり、環境との連続性を確保している。また、住戸間の通路には、雪囲い通路と設計者の呼ぶアーケード状の雁木を思わせる通路がしつらえてあって、冬季の積雪に備えるとともに、コニュニティの形成をはかっている。公共住宅にありがちな無機性、孤立性を克服する試みとして評価された。

住宅の部の入選作品「竹澤邸」は、不整形のいびつな形の敷地に建つ住宅で、敷地を最大限に利用するために円弧状の平面計画となった。構造もこの計画を可能とするためにRC造と木造の混構造が採られた。一、二階とも廊下沿いに各室が並ぶ平凡な平面だが、しかし、外観のデザインは混構造の対比を生かすべくユニークさをねらった意欲的なものが見られる。またインテリア細部にもそれが認められる。敷地の悪条件を可能な限り利点に転換しようとする設計意欲が評価された。

【審査委員長 竺 覚暁】

一般の部

入賞 新湊市博物館

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建築主
新湊市長 分家 静男
設計
(株)内井昭蔵建築設計事務所
施工
佐藤工業(株)北陸支店 塩谷建設(株) JV

入賞 桂湖ビジターセンター

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建築主
富山県知事 中沖 豊
設計
(株)内井昭蔵建築設計事務所
施工
安達建設(株)

入賞 富山県水墨美術館

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建築主
富山県知事 中沖 豊
設計
富山県建築設計監理協同組合
施工
(株)熊谷組 北陸支店 石坂建設(株) 辻建設(株) JV

入選 道の駅「カモンパーク新湊」

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建築主
新湊市長 分家 静男
設計
(株)内井昭蔵建築設計事務所
施工
川田工業(株)

入選 富山市民プール

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建築主
富山市長 正橋 正一
設計
(株)梓設計
施工
佐藤工業(株)北陸支店  日本海建興(株) 近藤建設(株) 牧野工業(株) JV

入選 株式会社日平トヤマ 福野第7工場(設計棟)

建築主
(株)日平トヤマ
設計
(株)日建設計
施工
清水建設(株)北陸支店  川田工業(株)  JV

入選 大門町改良住宅

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建築主
大門町長 田所 稔
設計
(株)GA開発研究所
施工
射水建設興業(株)

住宅の部

入選 竹澤邸

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建築主
竹澤 広治
設計
大野建築設計事務所
施工
松井建設(株)北陸支店