講習日時
令和6年7月30日(火)
9:30 ~ 17:25
講習会場
富山市安住町7-1 富山県建築設計会館3階
※近隣の有料駐車場をご利用ください
定員
16名
令和6年7月30日(火)
9:30 ~ 17:25
富山市安住町7-1 富山県建築設計会館3階
※近隣の有料駐車場をご利用ください
16名
令和4年11月29日(火)
9:30 ~ 17:25(受付は9:00 ~)
富山県建築設計会館3階
富山市安住町7-1
10名
既存住宅状況調査技術者講習テストの記事です
この賞の目的から、富山県内の地域社会の発展に寄与し、かつ優秀な建築作品を選考しなければなりません。前者がなかなか定義しづらいものでした。今回の審査では、作品の中に富山県の「何か」を感じながら優秀な建築を選考することにしました。ここでの「何か」はそれぞれの作品に見いだせる、富山県にとって意味ある主張や技術などです。その上で優秀な建築ということになります。
今回の応募作品数は、一般の部3件、住宅の部9件でした。応募作品数は年度により増減があると思われますが、今回は昨年のそれぞれの数7、18に比べますとおおむね半数となっています。平成25年度は少ない年のようです。それでは、応募作品を概観しましょう。
一般の部では、それぞれ作品の富山県の「何か」についてが、はっきりと異なっているものでした。高度な消防訓練と防災の啓蒙を担った作品、長く愛された校舎を現代に適応させその寿命を延ばした作品、富山の文芸文化の拠点として周景に融け込んだ作品です。それぞれの特徴が異なるので比較に苦労しましたが、綿密な計画と丁寧な施工による造形という観点から見ると差を感じ取ることができました。防災施設は、消防学校および訓練施設に高い使命を感じとれました。耐震改修を契機に現代に蘇らせた校舎は細部にわたっての気配りが感じられました。文芸文化の拠点では、建築物そのものにもまたランドスケープとの統一感に高いものを感じました。
住宅の部では、風土に合った作品、設計者と施工者のよい協働の作品、過去の住まいの記憶を引き継ぐ作品、心地よい光の空間を持つ作品、木材の理にかなった利用の作品、挑戦的というか実験的な提案の強い作品、など、いずれも施主の要望を最大限に具現化した作品でした。これらの要望は富山県の「何か」にすべて通じるものでした。富山県の郊外では敷地が広くて住宅の設計の自由度が高いように捉えていましたが、不動の土地に施主の個別な事情が存在することから、あらためて住宅設計の難しさを目の当たりにしました。すべての作品には、それぞれが有する課題を解決した部分を強く感じ取れましたが、いずれの作品にもこうであればなあ、とさらなる期待への講評が入り、審査員一同が手をたたいてなるほどと思わせるまでに至らなかったことから優秀賞作品を選出できませんでした。
【審査委員長 秦 正德】
明治32年創立の舟橋村立舟橋小学校は、村民と共同体の記憶を培う中で、RC造3階建ての校舎が昭和48年に建設されました。応募作品は、新耐震基準を満たすために、使いながら逐次改修するという経済的な方針が採られたものです。一文字型校舎の中央部南側にクラスターが加えられ、上二層の接合部分はラーニングセンターに当てられました。旧玄関は教職員・来客専用となり、反対側に生徒用出入り口が設けられ、給食調理配膳部分はその上の特別教室と共に機能分節されています。教室や廊下だけでなく全ての空間、設備が快活にかつ安全に演出され、体育館の内部、開口部、ピロティも、リノベーションの味わいと創意に満ちた工夫や意匠が加味されています。耐震ブレース部分は、リズミカルなファサードで更新されています。
助成基準等の制約があったのかも分かりませんが、付加したクラスター部分が単純に直交するのではなく敷地形状に合わせて角度を振らすことで、広角側の開口部からの、ラーニングセンターへの、より十分な採光と換気が可能とされ、南側の内外部の空間や形態に必然的で魅力的な転調を与えることもできたとも思われます。とはいえ、歴史的には重要な建築ではないこの校舎への村民の愛着を次の世代へと継承するにふさわしい品格を、あらゆる位相で呈しているこの作品は、生徒にも良い影響を与える豊かな教育環境のリノベーションの模範であり、入賞作品として高く評価されました。
【 松政 貞治 】
富山市中心地区において、城址公園と松川の遊歩道は「歩いて楽しいまちづくり」の核になっています。この松川の園路から少し内側に入った位置に本施設が建設され、松川と本施設の間も同時に庭園として整備されたことで、松川の散策路が街の中まで引きこまれ、「通り庭」と「土間」を介して街中へと繋がる回遊路が生まれました。また、これまでクローズされていた旧知事公館の庭園もこの回遊路に開放され、松川から連続する良好な緑地帯が街へと広がり、庭園と建物が一体となった魅力あるランドスケープが生まれました。
施設の構成は明快で、展示室等の閉鎖的な空間を「蔵」、蔵の周囲を通過・滞留・交流する場を「土間」に見立てています。県の施設として、「蔵」の壁は地場産業をアピールするアルミ鋳物パネルで覆い、「土間」の天井は県産材の杉で大胆に仕上げています。エントランスの大庇周りの庭園のパノラマ、天井の高さの抑揚、上部からの柔らかい光、庭が垣間見えるシーンなど、空間演出の見せ場が連続しています。また、展示設計や家具デザインの完成度も高く、総合的に高いレベルの公共施設になっています。一方、社会が注目する新しい展示系施設として、次の時代を予見させる建築計画・意匠面の新奇性を提示し、建築界を啓蒙する表現があってもよいのではないかと思いました。
【 蜂谷 俊雄 】
安全・安心な暮らしの確保、多様化・大規模化している火災等に対応できる消防職員・消防団員の育成、防災知識の普及啓発を図ることを目的として、「防災拠点施設」、「消防学校」、「学習施設」の3つの機能で構成されています。消防防災活動を担うこのような拠点機能を富山県にもたらせた意義は大きいと考えます。
北東交差点から東側施設正面へと近づくにつれ、施設の全貌が見渡せ、建物全体が来訪者を迎え入れるような形態となっています。各施設は、それぞれの機能を持つ棟ごとに分節化されており、水平ラインを強調した半屋外空間の「アクティブモール」が各棟を繋ぎ合わせています。
メインエントランス手前に、シンボリックに配置された体験型学習施設(四季防災館)のガラス張りのファサードは、内部の施設や体験者の様子を屋外からも感じ取ることができます。この館の疑似体験装置は人の限界を知るよい機会を提供しています。これらの体験と有機的に繋がった展示がなされると良いと思われました。
消防学校においては、光庭やテラスが効果的に配置され一体感のある明るく開放的な空間となっていました。防災と災害救助活動など県民の生命と財産を守る使命感を、直線で構成された造形に感じとることができました。13階建て、高さ45mの主訓練塔は、その機能をうまくデザインし、防災拠点の力強いシンボルとなっています。
【 秦 正徳 】
住宅部門の審査をしながら、1979年の『新建築』時評「平和な時代の野武士達」(槇文彦著)を思い出しました。この言葉は大組織で「禄を食む」ことなく、自分を貫き力強く生きる建築家像を比喩した表現でした。今回の現地審査で説明された6名の設計者が、それぞれの作品に、施主の夢を実現するために厳しい条件下で格闘し、自分の道を突き進む姿を拝見し、この言葉が蘇ってきました。
優劣を決めるための審査会ですが、施主要望・敷地条件・コストなどが個々に異なり、簡単に比較できるものではありません。施主の夢は各々に異なり、また実現へのアプローチの手法も様々ですが、そのプロセスで発揮されたデザイン力・技術力・独自性・執念などを比べることはできました。このような視点で審査をすると、本作品が最も高いレベルにあるように思えました。例えば、微妙に折れる平面に対して、短手方向に傾斜屋根をかける一般的手法に留まらず、さらに長手方向にも傾斜させた屋根形状は、審査図面を見る限りでは一見複雑で奇異に見えました。しかし、内部の吹抜空間に入ると、微妙な変化と動きを感じさせる独創的な空間演出であることがわかり、木造住宅の新たな可能性を発見することができました。また、建物形状や屋根架構の検討プロセス、南側立面が光を受けて微妙に折れ曲がり変化するシーンなど、設計レベルの高さを感じました。
【 蜂谷 俊雄 】
住まい手の暮らし方と周囲の環境に折り合いをつけるのが、限られた立地の住宅では課題の一つとなると思います。この住まい手は友人との交歓を楽しむ仕掛けとなる住宅を求められていたということです。富山県の交通事情から来客の複数台の車を駐車させるのに、大通りに面した元の町並みの線から前面すべてをセットバックさせて必要な奥行きを確保しながら、町並みの線を乱さない植栽を配置したシンプルな表情の外壁面となっているところに好感が持てました。
路地のような空間に続く玄関を入ると、ほどよい量の木材を配置した、もてなしの空間が構成されています。おそらく料理の得意な住まい手なのでしょう、客が座って坪庭を眺めながら対面で接待できるカウンターが仕組まれていました。客の目に入る坪庭の背景となるガレージに置かれた車が気になりましたが、居心地のよい光の入る非日常的な雰囲気を感じることができました。
これらの空間を構成する木材は、適材を峻別するために含水率はもとより強度を非破壊で測定したということでした。木材を利用するときに富山県に定着して欲しい技術です。また、空調機一台だけですべての部屋の温度を個別にコントロールするシステムを構築し、快適な居住性を得るとともにエネルギーの消費量を抑えることにも成功しているようでした。家族というくくりでない生活を営むこの住宅は、これからのコミュニティのための場を示していると思われました。
【 秦 正徳 】
素材とカタチで記憶を残す・・・この家は依頼主の生まれ育った地に生まれ育った家の材で新築した住宅です。年月を経て味を持った格子・柱や梁・天井板・建具が、新しい顔とセンスで、さりげなく新たな場を得ていました。
依頼主が気に入っていた格子から暮らしの灯りが柔らかく外に漏れ、小さく絞られた玄関から広がる和の空間は、富山の杉板と畳と馴染んだ建具とでプロポーション良く整えられています。居間には以前の家から引き継がれた柱と梁がしっかりと姿を見せて存在し、新しい家族を見守ります。梅の老木を居間から見ることができるよう以前と大きく平面を変え、台所・居間・庭へのたたき・梅の木、と軸線と視線を一直線に整えると同時に、シンプルな動線のコンパクトな生活空間に仕上がっていました。
学生の頃から木材に親しみ、自作の木製家具を愛用している依頼主の思想を、設計者は充分に汲み取り上質にまとめ上げています。また、部分的ではあっても塗壁で仕上げること、丁寧に解体して材を蘇らせた大工職人の技など、素材の選択は富山の本物と職人を守り育てることへの大きな貢献です。
今後、広い前庭や裏庭を緑豊かに作っていかれると、重厚な外観も和らいで町と繋がるでしょう。要塞のように閉じられた住宅が増えるこの頃、建築はできる限り開いてほしいと私は思っています。カタチで開いて気配で繋がる、庭で開いて緑で繋ぐ、健やかな家々が町につながっていくことを願います。
【 加藤 則子 】
建築大工
多年の亘り、魚津建築高等職業訓練校の指導員として後輩の育成に尽力し、また伝統的工法を生かし、数多くの仏閣、店舗、住宅を雪国の地域性を考慮して施工してきた。
建築大工
多年に亘り、伝統工法により、数多くの神社、仏閣、住宅等を手がけると共に、多数の内弟子を育成した。
また、建築組合の役員を歴任し、業界の指導も行っている。
石工
多年に亘り、県内の大型著名建築物の石張り工事に携わり、建築物の品位を高めることに貢献した。また、県石工技能士会の技能検定委員として石張り技能の向上に尽力した。
鉄筋工
多年に亘り、多くの公共建築物の鉄筋工事に関わると共に、近年は登録基幹技能者講習の先頭に立ち、若手技能者の技能向上に力を注ぎ、多数の合格者を送り出している。
配管工
多年に亘り、県内の多くの公共・民間建築物に配管工として携わり、建築設備の基幹部をしつらえることに貢献した。また、いち早く配管のプレハブユニット化に取り組み、工期短縮に役立つものとした。
7つの専門職域から7名が表彰されました。
第1回建築功労賞受賞者
建築大工
日本伝統工法を現代的感覚に生かし、数多くの住宅、茶室、店舗等を雪国の地域特性に応じて施工してきた。
建築板金工
伝統技能を継承しつつ新技術にも挑戦、両立を図りながら一般住宅から大型物件と数多くの物件を手掛けてきた。
建具製作工
木製建具の製作に永年従事し、全国的にも評価され、後継者育成にも尽力してきた。
内装工
長年にわたり地域の公共建築や住宅の壁装にたずさわり後継者育成も尽くしてきた。
畳製作工
長年にわたり地域に密着し、良質な畳製作を続けてきた。
配管工
長年多くの公共・民間建築の設備工事にたずさわり、地域の配管設備工事の水準向上に努めてきた。
曳家工
公共事業に係る曳家移転や文化財・古民家の修復工事等に長年携わり、建築資源の保全に努めてきた。
印刷関係の本社ビルで二つの特徴があります。一つは省エネに重点を置き、屋上の太陽光パネル、デザインと一体化したライトスルーパネル、LED照明、夏季の地下水利用の空調システムと盛りだくさんです。北陸初のCASBEE Sランク認証という点を評価しました。もう一つは、災害に強い建物ということで、耐震ブレースを設置した地震対策、防潮板設置等の水害対策など様々な災害に備えています。民間の建物ですが災害時、地域の人々に一次避難所として開放するという社会性をもつ建築です。
富立大橋に至る高架道路側に位置します。巨大なインフラに対して、敷地内の桜の木を避け、繊細なデザインで対峙しています。空気の流れを取り入れるアルミルーバーと、内の気配を感じさせるプロフィリットガラスによる公園に面したファサードの構成。薄い片流れ屋根。小さな公園トイレですが繊細なディテールです。夜間には、駐車場をぼんやり照らすプロフィリットガラスの光など、夜の景観も踏まえた質の高い建築です。
コンクリート打放しの壁構造の上部に、木造の切妻屋根が架けられ、周辺の緑の中にひっそり佇む建物です。壁上部の空気を取り入れるためのアルミルーバーと対照的な木製ルーバーが、正面ガラスの内側に設けられ、目線を遮るとともに開放感も与えています。屋根の破風にもトーメイガラスが入れられ外部の木々が内部から見え、屋根架構の木の素材とともに自然の暖かみが感じられる密度の高い建築です。
敷地の西側と南側が県道に接するため、プライバシーの確保と喧騒から住環境を守るために分棟形式で対応しています。道路側にゲスト棟を配し、家族棟の間にプライベートなコートを創りだし、家族棟を開放性の高い空間にしています。閉じられた形式ですが、街に面したゲスト棟は低い塀に囲まれ庭の緑を街に提供し、低く抑えられた外観は、大規模な邸宅をヒューマンスケールにしています。現在、ゲスト棟はゲストルームというより、住み手の様々な思いでの品や、美術品が展示されギャラリーのように使われています。このギャラリーが街に開放されると、より街との接点が増すでしょう。
四方が中高層のマンションで囲まれているため、外部から住み手のプライバシーを守るために、最小限の開口部しかもたないコートハウス形式の住宅です。光を取るために中庭に面した開口部も低く抑えられ、適度な暗さを演出するとともに視線の変化を創りだしています。中庭を介したDKとリビングの床高の変化や、リビングの吹き抜けに面した2階廊下の狭い開口部など家族の微妙な気配を感じさせます。現代住宅に日本の美意識を表現した建築です。
高齢化に向かうクライアントの生活の場は、1階に集約され、バリアフリーになっています。3階分の高さの所にはゲストルームを設け、剣岳の眺望を確保し、生活の中で運動を促進するための仕掛けを創っています。1階はL字型プランで、囲まれた部分にリビングと一体化したデッキテラスを設け、外部の生活を取り込んでいます。リビングのテラスに面した壁を斜めにすることと、天井高を低く変化させてゆくという単純な操作で、パース効果を創りだし空間に変化と豊かさを与えています。
西側に幹線道路、北側に生活道路に接した角地に建つ住宅です。コートハウス形式で住宅のプライバシーを確保し、コートに面してDKとリビングを配し、大きな開口部を設けて、光を取り入れ気持ちの良い空間を作り出しています。閉じた住宅ですが、街に対して車1台分の駐車スペースとアプローチ部分に植栽を施し、街に開放しています。アプローチのポーチも木とガラススクリーンで構成され、繊細なデザインの庇が架けられた角地建築として美しい佇まいの建築です。
小さな光庭が各所に配され、内部空間を緩やかに分節するとともに、内部に光を充満させている。ゆったりとしたエントランスホールとプレイルームを核として各保育室が配されていて、子供たちにとって解り易い空間構成である。プレイルームの上部から幼児保育室に続く子供の背丈に合わせた低い回廊は、子供たちの冒険心を掻き立てる。また、子供たちのために、各所に気配りの行き届いたディテールが施されている質の高い建築である
建物の中心に大きな吹き抜けを設け、各教室を配するという明るく明解な空間構成である。2階の吹き抜けの周りの教習者自習スペースは、オープンで気持ちの良い空間になっている。外観は道路よりセットバックし、外壁ボーダータイルと車庫の有孔折版も調和し、大型建物ではあるが景観に配慮している点を評価した。
社会から疎外されている女性を守るという観点から、外部は閉じ内部は中庭に向かって開くという「百家」の砦をイメージした建築である。建物は木造なので砦といういかついものではなく、規模の大きな住宅の様相である。内部も木材を多用し、暖かい空間を創りだしている。
切り妻家型のプリミティブな外観が、周辺の雄大な自然と調和している。平屋の住宅で、リニアな平面計画である。直線的に繋がる各室をそれぞれ特色のある家型の間仕切りで関係づけられている。開口部と外部との繋がりは希薄なのだが、土間空間を2か所挿入することで外部空間との関係も補っている。シンプルな構成で、豊かな空間を創出している点を評価した。
街に半分開かれた小さなコートが、1階のダイニングキッチンと床のレベル差のある居間に生活の潤いを与えている。階段の踊り場にある書斎から、2階の個室の前にあるパソコンコーナー、1階ダイニングへと視界が通り、家族同志の良い距離感を創りだしている。
1学年5クラスという大規模な小学校だが、エントランス広場から見るファサードは低く抑えられ、建物全体も光庭を取り入れながら分節化し、ヒューマンスケールにしている。内部は大きなマッスであるが、各所に光庭が配され明るく、各室はガラスを多用し、透過性の高い、開放感のある空間である。学年ユニットは、オープンなクラスを分節し、機能的で変化あるワークスペースに連続している。高学年ユニットになると、ワークスペースが特別教室で結束され、クラスタープランの新たな展開を感じさせる計画的に優れたものである。デザイン的にもディテールに至るまで配慮された完成度の高い作品である。
黒部の山間部にある築百年以上の崩壊した庄屋を再生した作品である。再利用不能な部分もあり、完成した建築は元の規模の3分の1程度になったそうだが、解体した材料を見極めながら建築を作り出すという匠の優れた技術と構想力には感服する。客席は、民家の構造材をそのまま再利用したワクノウチの広間で、ダイナミックな空間を作り出す大胆さと、造作材をきめ細かく再利用してゆくという繊細さの両方を兼ね備えた作品である。
敷地の高低差をうまく利用して、生活の場を作り出している。特に道路レベルにあるダイニングキッチンと、テラスに開くこの家では一番低い所に位置するリビングとの高さ、広さの関係性は秀逸である。基本的には吹き抜けを介してすべての場が連続してゆくのだが、このレベル差が家族の心地よい距離感を作り出している。シンプルな外観とは対照的に豊かな内部空間をもつ作品である。
建築家は龍吟庵の方丈に初源的な構成に感銘を受けたという。田の字型のシンプルな平面計画で、周囲をめぐる縁側を、うまく動線部分やバッファゾーンに利用し、現代生活に適応した住宅に変貌させている。竹林に面した部分は大きく開放でき自然と住居の一体感を醸し出し、スケールの良さもあり落ち着いた空間になっている。日本人のDNAに訴えかけるような、田の字型プランの可能性を改めて感じさせる作品である。
中心にオイと呼ばれる共通の居間をもった2世帯住宅である。親夫婦のスペースは水平に、若夫婦のスペースは垂直に構成されている。そのため外観は水平に高さが抑えられていて、2階建ての和風住宅のもつプロポーションの悪さを解消している。この住宅は街に対して、美しいファサードを見せるとともに、道路と住宅の間に敷地内の小道を設け、半公共空間を提供している。居住まいの良さが評価できる作品である。
この施設は知的障害児施設であるが、あくまでも子供たちが集い暮らす「家」という視点で造られている。児童の生活を考慮して、プライバシーの確保から集団生活に適応するためのパブリックスペースまで、キメ細かい配慮とデザインがなされている。ユニットケアという観点から、中庭を内包したユニットが自然と関わりながら廻遊性をもたせ連続させてゆく動線計画に工夫がみられる。複雑なプログラムと既存の建物を使用しながらの建て替えという困難を乗り越えて、豊か空間を持つデザイン性の高い建築である。
立山連邦の有機的な曲線と、杉の角材を用いた外壁の直線とが対比して、美しい佇まいをみせる建築である。中庭をはさむL型の平面は、ともすれば長い動線空間が必要になるのだが、廊下をギャラリーと見立て、ハイサイドライトが入るアート空間として来場者を導く。ギャラリーの各所にはアールコーブのような溜まりの場を設け、開口部の高さの変化により外部空間とうまく関連づけ、さまざまな交流の場を演出している。空間の連続のさせ方、デザインの完成度の高い建築である。
最近の学校建築によくみられる中庭を挟んだ、コの字型の空間構成である。立山連峰を望む中庭は、写真で見るとスケールオーバーしている感があったが、現地審査で訪れると、良いスケールであった。富山市の中心部にある学校なので、街区の他の建物とのヴォリュームをあわせるために、セットバックやヴォリュームの分節化、外壁の素材等、建築の構成に工夫がみられ、街並みに馴染んだ建築となっている。
クローズドな環境を求められる1階部分飼育エリアのコンクリート打ち放しの壁面と、2階の執務エリアの開放的なカーテンウォール用いた壁面との対比が、美しいファサードを構成している。現在は、1棟の建物だが、将来の全体構想として中庭を囲む分棟形式を提案し、外周部にはクローズドした実験棟、中庭に面しては開かれたコミュニケーションエリアを設けるというコンセプトが明解な建築である。
既存建物の一部を残し、2世帯住宅へ、リノベーションした計画である。既存部分と新設部分が、中庭を挟んで緩やかに結合されている。親世帯と子世帯のリビングや和室は、中庭に面して融合され、寝室などのプライベートスペースは、中庭により区切られている。改築後、内部はムク材を使った家具で統一感を出し、外観は、従来の建物のヴォリュームより低く抑えられ、前面道路からもセットバックし、自然豊かな景観に配慮した建築になっている。
窯業サイディングとガルバリューム鋼板によって分節化された外観の意図は図りかねるが、オーソドックスな平面計画の中に、リビングとテラスを斜めに切り取った開口部の開け方は評価できる。斜めの視線は、内部空間に拡がりを与えるとともに、外部空間を内部へ侵入させ、豊かな空間となっている。
吹き抜けのあるリビングを中心に、両サイドに個室が取り囲むというシンプルな平面計画である。この単純な構成を暗示するようなファサードの作り方には疑問が残るが、LDKを挟んだ個室がスキップフロアーで構成されているところが評価できる。吹き抜けに面した開口部にも工夫がみられ家族の程よい距離感を演出している住宅である。
総曲輪通り、中央通りに代表されるように富山の繁華街はアーケードを架けたリニアーなもので、基本的に人が通り抜けて行くものであった。そこに総曲輪通りと平和通りを繋ぐ相当規模の人が溜まり、コミュニケーションが出来る広場を創り出したことが評価される。雪国である富山では繁華街にアーケードを架すことは必要だが、通り空間が閉鎖的、閉塞的な感覚を与えるものになっていた。そこにこうした開放的な空間を通り中央部に連接させたことで、繁華街空間に変化する空間的対比を創りだし、繁華街空間全体を魅力的にしている。広場の空間造形においては、全体をガラスで覆った明るい開放的な空間を創っているが、積雪荷重などの悪条件にも拘わらず、隣接建物の壁からガラス屋根を吊るなどサスペンション構造を用いて梁の断面を小さくし、従来のスペース・フレーム立体トラスでは実現できない開放感、透明感のある屋根および空間を実現している。覆いとしての屋根、壁、構造の視覚的プレゼンスを極力抑えることを目指したデザインが評価できる。
地元で生産される小断面で必ずしも強度も一律ではない杉材を使用しながら、集成材の技法を採らず、また極力金物の使用を避け、伝統工法を応用したユニークな構造、角材を四本並べて緊結した材で台形フレームと山形フレームを作り、これを交互に桁行き方向にならべて五つの稜を持つ木造ヴォールトを形成し、その上に小口の母屋と垂木の屋根を架けると言う構造を案出して大スパン空間を実現している。この構造で実現された体育館インテリアは、木材のテクスチュアと色彩のみで構成されたインティメイトな魅力ある雰囲気のものとなった。また外観も曲線的な柔らかさがあり周囲の田園環境に調和し馴染んでいる。必ずしも良質とは言えないこうした地元材を、新しい技術的考案によって積極的に用いることで、地元産業の活性化を図っている。
一階にガラス工芸アトリエを持つ併用住宅であるが、一階ではこうした異質の機能を容れつつも、流動的なフレキシブルな空間を創り、主寝室、浴室等の閉鎖的、独立的空間は二階に配し、かつ日照、風などの環境条件に対応した巧みな平面計画が評価された。また1m以上最長のものでは2.5mに達する深い軒の出が特徴のひとつであるが、これによって環境負荷を減らす試みがなされている。同時にこの軒の水平線とやはり深い出を持つ切妻の形態、ガルバニューム鋼板、セラミック・サイディング、漆喰を用いた外壁の材質構成が、建物の外観を個性的で魅力あるものにしている。
様々な、しかも良質とは言えない形態の住宅が敷地の周囲に立ち並ぶ新興住宅地における住宅デザインのひとつの提案である。すなわち外へ向かって閉じた空間を創り、内部に中庭(コート)を置いて内へ向かって開く町屋型の計画である。センターコートを巡って諸室が配されたシンプルな平面計画、また住人の趣味であるインドア・クライミングのトンネル状に立ち上げたクライミング・ウォールを容れた吹き抜け空間、それに掛けられたブリッジで連絡する二階の子供用空間など意外性のある三次元的な空間構成が評価された。正面外観はガルバニューム角波張であるが、これを黒塗りにしその比例を整え、また玄関部を打ち放しコンクリートとガラスで構成したこれも整った比例をもつ箱として突出させることによって、美しいシャープなコンポジションを創り出して、外部への圧迫感を低減している。
新築住宅であるが、住人がかつて住んでいた築50年の伝統的住宅を解体した古材を要所に用いた設計である。古材は主として欅の構造材で玄関、リビングの構造に用いられ顕しとされて、魅力的な空間を創り出している。また式台や腰掛などの造作や家具の一部にも松などの古材が用いられて、雰囲気を出している。本漆喰や引きずり仕上げを用いた壁など材料と仕上げが優れた効果を出している。また庭への眺望が設計テーマのひとつで、造園にも工夫がみられる。
一辺約7.7mの正方形平面の中心線に沿って十字形に、幅88cm、83cm、65cmの二階を通して屋根まで抜ける廊下状のスリットを入れ、トップライトを持つ吹き抜けとし、一部を階段室、収納、洗面、便所などに用いながら各室に採光するというユニークなプランニングと空間構成である。このスリットが構造体でもあるので、スリットにとりついた各室の床の高さは自由に選択できる。スリット空間を渡って床レベルの高低差のある各室が連絡しまたそれを通じて視覚的に連なり、工夫された色彩計画と相まって、変化に富む面白い空間を作り出している。またこのトップライトを架したスリットが空気ダクトとして機能し、空調効率を高めていて、環境負荷の軽減が図られている。
診察受付ロビーにラウンジを加え、広く取られた患者溜まりの空間を、接客空間ととらえ、魅力的な室内意匠を施して、患者の不安を和らげて受け入れる雰囲気を創っている。個々の診察に対応する診察待合ロビーを別に設け、ここも患者をリラックスさせる親密で寛いだ雰囲気の空間としている。またほぼ真西に面する正面ファサードに45度に振った壁を雁行させて、室内への西日の入射と全面道路の交通騒音を和らげ、南からの採光をすると同時に、平板になりがちなファサードを奥行きと陰翳のあるものにしている。また動線計画にも優れている。施工も優れている。
敷地を南北に走る「散歩道」と称する校地内メイン・ストリートを設けてアプローチとなし、その西側にランチルーム、特別教室、体育館、プールを配し、東側に校舎とグラウンドを配した機能的な配置計画が優れている。オープン・スクール・システムを採る校舎棟の可動間仕切りによる二クラス単位での空間利用も可能にするフレキシブルなシステムを作り出している。中庭を介して校舎棟内特別教室とクラス・ルームが回遊性をもって繋がれている。ステージを持つ楕円形のランチルームの造形に優れている。また体育館の軽快で実内に圧迫感を与えない構造も評価される。施工も優れている。
井波、八日町通りを訪れる観光客誘致のための複合施設であるが、木造町家造りを基本とした町並みと調和し、違和感のないデザインである。特産品ショップ、飲食店、工房、研修室、池波正太郎小博物館など多様で異なった機能を持つ各部を、一階では中庭に連なる路地空間、二階では「立体路地」と称する廊下状のペデストリアン・デッキで繋ぎ、それらを階段でもって要所で繋ぐ立体的な回遊性を創っていて、優れた動線計画による空間の魅力的シークェンスが創造されている。木造構造が顕しになった伝統的町家のトオリニワ空間を思わせる吹き抜け空間も美しい。施工も精緻である。
前面に事務室、児童クラブ室などの各室を並べて手前に傾斜する片流れ屋根を架け、背面へ向けて低くなっている敷地にその大空間の遊戯室を配して、道路側からの建物のプレゼンスを抑制して、圧迫感のないアプローチを作り出している。地元産を主とした国産の杉の製材品を用い、極力、伝統的な仕口、継手工法を用いた架構を創っている。とりわけ遊戯室の筒状の大空間を覆うトラスは独創的で美しく、魅力的名空間を創り出している。木構造の高度の施工が行われている。
建物前面にエントランス・ロビーを置き、これを二階分吹き抜けた空間とし、二階への階段を配し、小規模な建築だが伸びやかな内部空間を創っている。またこのことによって同時に前面のファサード・デザインの自由性を確保し、同寸の透明、半透明のガラス・パネル、不透明のパネルをランダムに配して、内部が適宜透けて見える変化のある魅力的なファサードを創り出している。この手法は二階から三階への階段室にも適用されて成功している。ピロティに載せて背面にL字型に突出させた二階の部分に法律相談室を配して相談者のプライヴァシーに配慮したプランニングを行っている。二つの独立した機関の事務室や会議室など、また駐車場など複雑な機能を手際よく捌いたプランニングに優れ、施工も精緻である。
矩形平面に135°の角度でもって矩形のリヴィング・ルームを貫入させた特異な平面と床をスキップさせつつ三階にした構成が相まって、小屋組を顕しにした吹き抜け空間やポケット的空間を持つ魅力的な空間を創っている。この空間はまた、薪ストーブを用いた暖房の暖気循環が考慮された結果でもある。狭小な敷地を効率よく利用し、連続した敷地内にある両親の家に対する相互のプライヴァシーの確保にも意を用いている。伝統的木造構法とRC増を併用した混構造で優れた耐震性能を確保している。
狭い短冊形の敷地に建つ両側面が壁で閉ざされ、内部に吹き抜け空間を創って内に開く、典型的な町家型の住宅であるが、二階書斎コーナーのデスク下に置かれた液晶プロジェクターで、吹き抜け空間上部の壁に画像を投影して、空間の拡がりの感覚を与えている。家屋最後部の室を畳敷きにし、裏の坪庭を望ませて和室的な空間を創っている。この室の屋根が二階のルーフテラスとなっており、そこからも庭が望める。狭隘な敷地の中に変化に富む立体的内部空間を創造することに成功している。
オープン・クラスルーム・システムを採った小学校であるが、オープン・スペースをゆったりと取る他に、通路スペースを広く取って、そこに図書ラウンジ、ふれあいホール、メディア・スペースなど児童同士や教職員が触れ会うことの出来るコミュニケーション・スペースを配して、学校全体のコミュニティ性を高めることに成功している。クラス・ルーム以外での児童他の行動を把握するための教員コーナーの配置、ブロック化された地域開放部分、それらを繋ぐ周回性を持たせたプランニングは、校内セキュリティの確保と言う点で優れている。またランチ・ルームに開くことの出来る音楽室やその他の特別教室にもそれぞれに特徴ある空間造形が与えられ、楽しい学校空間を創り出している。
住民が様々な文化活動、コミュニティ活動を行う場としての施設である。この地域の伝統的な「アズマダチ」民家の木構造をモティーフにしたデザイン、とりわけ多目的ホールに於ける重ね梁による独創的な形式の小屋組を顕しにした空間意匠、またそれと対をなしたエントランス・ホールの貫小屋組による空間意匠が優れている。また庭側の長い開口部に設けられた雁木通路と呼ばれる濡縁的空間が室内空間と戸外空間を繋ぐ役目を果たして空間に奥行きをもたらしている。この部分の剛性を補うための耐力壁も耐力格子という形式にして意匠的に違和感のない設えにしている。
老人医療を専門とする病院である。全病室を患者や家族にとって望ましい個室にすることを実現しているが、それを前室及びトイレと個室四室から成るクラスター・ユニットとして構成することで、従来通りの多床室に対する看護医療体制でも個室群に対するケアを可能にすることに成功している。またナース・ステーションと食堂を各病棟の中央に配することで病棟を細分してインチメイトな雰囲気を持たすと共に、ステーションからの病棟の視覚的把握を密にしている。外構庭園もリハビリに活用できるデザインであることなど、病院計画に優れている。また、床や壁、外壁の材質、照明、家具など緻密に考えられた極めて密度の高い設計である。
建築平面全体、また各室平面が総て不整形の多角形という特異なデザインの美容室である。敷地が三角形なのでスペースを有効に利用することから由来した平面形であるわけだが、図面を見る限りではこの空間が適切に機能するものなのか疑義があった。しかし実際にその空間に身を置いてみると、その空間から隣接する空間が放射状に見え隠れに展開する形になっていて、魅力的な空間のシークェンスを創り出していた。また美容室という作業空間に対して多角形平面は矩形平面に対してデッド・スペースが少ないこと、従ってこうした小規模実務建築には有効である可能性を提示している。
標高1,100mの山中に建つ研修施設である。冬期は積雪4mを越すと同時に6ヶ月間無人となるこの施設に対し、県産材の杉の集成材を用いて斜材を多用した独創的な構造を創り出している。また有峰民家の伝統的構法、「うだつ造」を復原していること、多雪に対する様々な対抗デティル、意匠の考案も評価された。
周囲の景観的に劣悪な環境から室内空間を切り離すために外側に閉じ、中庭を設けて内側に開く一種のコート・ハウスの形式を、狭隘な敷地において巧緻に展開している。テーマになっている正面二階窓の大きな水平ルーバーも採光調節よりは直近下方への視野をカットする機能の方が大きい。中庭を取り巻いてスパイラル上に各室空間を連続させ、床のレベルを変えたりトップライトのある小さな吹き抜けを配したり、またルーフ・テラスを配するなどして小住宅ながら変化のある空間を創り出すのに成功している。在来工法を用いつつも外装にガルバリウム鋼板を用い、内装にも部分的に鮮やかな色彩のポリカーボネート板を用いてシャープな外観、楽しさのある内観を創造している。
登り梁を用いた基本的に平屋の構造であり、棟部分に吹き抜けを介しつつ二階を配するデザインによって、全体高を押さえたインチメイトで居心地のいい空間を創り出すのに成功している。玄関からリヴィング、ダイニングへかけてのセミ・パブリック空間とその他のプライヴェート空間を切り分けて行く動線計画に優れている。また玄関前のバイク収納庫、薪収納スペース、カーポートに本屋に連続する屋根を架けて大きなポーチ空間を創り、それを登り梁による深い軒の出によって創られたテラス空間に連続させることによって、庭に連続した魅力的な半戸外空間を創り出している。
キッチン、ダイニング等の共用部分を玄関脇に置き、その奥に親夫婦の居住空間を配し、共用部分から上る二階全体を子夫婦の家族居住空間とする二世代住宅としてのプランニングに優れている。庭、池、吹き抜けを持つテラスの半戸外空間、そして室内へと展開する空間の快いシークェンスを創り出している。また、玄関へのアプローチ空間の造形も、庭、リヴィングのプライヴァシーを保ちつつ、魅力的なものになっている
ほぼ正方形の平面に片流れ屋根を架けた単純な構成の家である。屋根の高い部分に二階を置いて寝室と書斎を配し、その下に玄関、玄関ホール等を置き、屋根の低い部分に、キッチン、ダイニング、居間、和室をおいてその上部を吹き抜けとしてワンルーム的扱いをした単純明快なプランニングが優れている。また土壌蓄熱式暖房システムの採用も評価出来る。
低、中層部に小規模商店街、高岡市中央図書館、男女平等センター、高岡市生涯学習センターとその多目的ホール、高層部にホテル、高等学校、県民カレッジを入れるという、これまで無かった商業施設と公共教育施設を複合させた新しいタイプの都市施設を提案したことと、それを高岡駅前という新しい都心軸に置いたことが高く評価された。質の異なる機能空間が三次元的に適切に整理されて配されていること、またペデストリアン・デッキや前面広場公園、エントランス・ホールから市民ラウンジに至る空間などによって施設全体を、都市空間に組み込んでいることも評価された。
敷地東面に庁舎本体を寄せ、それに消防車車庫がT字型をなして取り付く配置が、車庫を北面、南面の双方に開かせ、迅速な出動に資していること、また一階の動線計画が、隊員の出動に関して適切に計画されていることが評価された。庁舎本体に円弧を与えて地形に適合させ、アルミによる外装も要所でパネルのテクスチュアを変え、同時に開口部の形態もカーテン・ウォールと窓とを併用して変化を持たせている。三階バルコニーの赤い円柱がアクセントになってランドマーク的デザインに成功していることが評価された。
平小学校体育館の改築と行政センターの新築、小学校に併設してあった保険センターと若者センター「春光荘」の改修という複合的な計画を行ったものである。従って既存の建築計画的文脈にどのように新築部分、改修部分を適合させつつ新しい文脈を創り、デザインを改善して行くかが問われるわけだが、この作品はかなりの程度これに成功している。こうした既存の建築を再利用しながら新しい機能を付加して再生してゆくことは、これからの建築界にとって重要なテーマであるが、それに積極的に取り組んだことが評価された。
白壁、切妻の瓦屋根、木造軸組を連想させる貼付柱等の意匠によって、八尾町の歴史的景観に配慮したデザインを行っている。また、街路に接する部分には雁木的な庇を回して、歩行空間にヒューマン・スケールを与えインティメイトな雰囲気を与えることに成功している。こうした点が評価された。
小規模なパブリック・ライブラリーであるが、その機能計画の基本が適切に行われている。また小規模でありながら内部空間の変化、外部空間との取り合い、図書館機能に寄与する形での外構の処理等に優れている。外観デザインにも主張が見られる。こうした点が評価された。
妻側の屋根全体と全面道路に面した壁を鉄骨パイプ・フレームにガラスを入れた寄せ棟の箱を先ず作り、その中に木造二階建の居室を入れるという意表をついた構成が評価された。こうしたコンセプチュアルなアイデアは、例えば閉鎖的なプランニングを余儀なくされるなど、掣肘を来すことが多いのだが、この作品はこの外部の箱と入れ子になった居室部分との間の廊下状の空間にアトリエやキッチン、浴室、収納などのサーヴィス空間を入れること、また中庭を配することで適切に解決している。また街並に対してランドマーク的な美しい景観を寄与していることも評価された。
敷地南東の角に道路に開かれた庭を配置し、それを囲んで居室が配置され、居室と庭との取り合いに庇を廻して繋ぎの空間を作り、内部から外部に開かれてゆく空間のヒエラルキーを構成していることが評価された。広いユーティティ・ルームを取って多目的な利用を可能にし、リヴィング・ルームを総ての主要動線が交叉する家全体のホールとして扱った、利便性の高いプランニングが優れている。また、一階天井を根太天井として階高を押さえることによって、吹き抜け部分の空間スケールと家全体のプロポーションを適切なものにしている。
前面道路と住宅との間に、敷地幅一杯に約17.5m伸び、奥行約5.5mのゲート状の建物を配して、これを一種の接客空間、コミュニケーション空間とするアイデアが評価された。ポリカーボネート折版を貼った陸屋根で壁のない開放的な、仮設的に見える意匠が「浜茶屋」の連想を呼んだもので、周囲の田園景観にアクセントを付けて調和していることも評価された。
住宅前面と玄関奥に前庭、そして住宅背後に美しく広壮な日本庭園を配した住宅であって、居室空間と庭との取り合い、また庭の見え方に徹底して意を尽くした住宅であり、計画、意匠においてそのことに成功していることが評価された。日常生活空間と接客空間を玄関部によって完全に分離したプランニングも評価できる。
集合住宅、とりわけ公営のものは基本的機能が満足されれば良しとして、とかく規格性、均質性、経済的合理性が優先され、結果として無機的で退屈、単調なデザインになりがちであった。この作品はそうした傾向を否定したもので、基本的機能の満足は住のボトム・ラインであって、集住のなかでどのように豊かな生活空間を与えるかを試みた作品である。その為の様々な試みが見られるが、住居群の一単位を一戸から最大三戸までの集合として廊下等の中間領域で分節して住居群に近隣感覚を創り出していること、中庭、立体歩廊、共用テラス、ホールなどの中間領域を、植生等で庭園化したり、路地的に扱うきめ細かいデザインを施し、住居群全体を街的に組織することで豊かさを創出したことが評価された。
工場建築は機能性、経済的合理性のみに基づいて建てられ、悲しむべきことに、少数の例外を除いて造形的な配慮が殆どなされないのが常である。本作品はその配慮がなされていることが評価された。小矢部川河口の伏木港右岸に面して建つので、その文脈から船のバルジを持った曲面の二階ファサード創り、それを円柱が支えるデザインである。円柱のデザインや色彩計画に多少の工夫が見られるものの、デザイン提案としては曲面ファサードのみであって、単純に過ぎる憾みがのこる。
「吾妻建民家」の保存再生計画である。こうした伝統的和風民家の現代的住宅への再生は、如何に伝統的なものの魅力を保全しつつ現代的アメニティと感覚を挿入し、伝統的コンテキストを魅力的に読み替えて行くかが問題となるのであるが、本作品はその成功例である。基本的な構造と屋根以外はストリップ・アウトして解体除去し、その構造の枠内で内部空間の新しい文脈を創出した。例えば、元は広間であったワクノウチ構造部分を迫力ある玄関ホールとした他、トップライトを持たせた中庭やリヴィング、ダイニング、個室等は、モダンデザインを基本としつつも、既存の和様の梁を露出させ魅力的な空間を創っている。それに対して座敷部分は解体した造作材料をそのまま使用して、伝統的空間を保全している。こうした手法が評価された。
小住宅の限られた床面積を、夏季のワンルーム的な利用から冬季の個室的利用へとフレキシブルに組み替えることを意図したプランニングが評価された。また二階部の諸室の床をスキップさせることで、空間の変化をもたらすと同時に、一階天井裏と子供室床の間に大きな収納スペースを設けことを可能にしている。
キッチン、ダイニング、リヴィングが一体化した吹き抜け空間はサイズが適切でインティメィトな空間を創り出している。高断熱、太陽光発電を併用してかなりの省エネルギーに成功している。コンパクトに良く纏まった平面計画及び空間計画が評価された。
社会福祉活動の公的拠点施設と福祉活動者の養成・教育施設という異なる機能を、低層部と高層部に明確に分節させ、その分節が空間構成、構造形成、また意匠形態において徹底されている。この分節による空間的な分離を両者を貫く大きなアトリウム空間によって統合し、この空間が同時にランドマーク的なシンボル性を建築に与えている。この計画、デザインの論理的明快さ、徹底性が評価された。ガラスと鉄骨の透明感のある意匠は、この設計者特有の緻密なデティールと相まって、全体構成の大胆さと部分の繊細さがユニークな調和をもたらしている。優れた施工がこれを可能にした。また、かつて「舟橋」があったと言う敷地の歴史に関するレファレンスを、平面計画の上で、また高層部の形態において採っていることも評価された。
【竺 覚暁】
菓子店とレストラン、小宴会が開けるバンケット・ルームから成る商業施設であるが、狭嗌な敷地のなかで、これらの機能を明確に仕分けつつ、それらをつなぐ主動線とサービスの動線を干渉させることなく手際よく捌いたことが評価された。円筒ヴォールト状の屋根が全体の形姿を和らげるとともに建築にシンボル性を与え、ライト・ブラウンの煉瓦タイルのテクスチュアと屋根や開口部にもちいられた緑青状の色彩の扱いも成功している。また南側に付された小庭園とその道路との取り合いが、街の景観と環境に寄与している点も評価される。
【竺 覚暁】
0才~2歳児、3歳児、4歳児と異なった発達段階での保育を分離しつつ統合したゾーニング・プランが評価された。共通・管理部門をRC造とし、保育部門を木造とした混構造で、RC造の屋上部分を遊び場として利用することで、幼児の遊戯空間を立体化しバラエティをもたせている。内部の木材の質感を生かした意匠も、幼児の身体的な特性を考えたものとなっていて評価できる。ただ、外観の形姿に関しては中央塔屋のヴォリュームなどプロポーションにもう一工夫あっても良かった。
【竺 覚暁】
建築東西軸に沿って中央に大きな内部空間をとって、コミュニティ空間、共通空間、通路を配し、この周囲に居室や管理、サービス、サポート部門を分節室配して、複雑な養護老人ホームの機能を手堅く纏めていることが評価された。この中央空間は一階から二階、屋根のトップライトへの部分的に吹きぬけてあり、陰鬱になりがちな病院的施設空間に、開放性とシンボル性を与えて施設全体に一種華やかさをもたらしている。こうした点は老人ホームの建築にとって重要であろう。またデティール設計に老人に対する安全性の配慮がなされていることも評価された。外観については屋根を寄せ棟にしたことで周囲の景観に対する負荷を軽減しているが、ファサード構成について配慮の欲しいところである。
【竺 覚暁】
和風木造の割烹料亭で、基本的には切り妻屋根を架したごく普通の現代数寄屋のデザインであるが、この切り妻屋根の下に、妻側にむくり円弧を描いた庇を回すことによって、外観の印象を一変させ、ピンクの基調とした色彩と相まって、南蛮風というかエキゾティックな感覚を創りだしたことが評価された。この曲線は波のイメージであるとのことだが、楕円形の窓や壁面に描かれた線、門の屋根等に繰り返されてこの印象を強めている。しかし正面二階部分の窓およびそれに連続する窓が通常のサッシを用いた矩形窓であるのは惜しまれる。
【竺 覚暁】
宿泊しない一般入浴客も利用する温泉施設と宿泊滞在施設の複合した機能を手堅く整理して計画したことが評価された。内部意匠も手堅い。外観は切り妻瓦葺きの屋根を重ねて周囲の景観との調和を計っている。しかし全体の形姿としては、二つのポーチと階段室塔屋部分の比例など、一工夫必要であろう。
「特別養護老人ホームいなみ」
一階に管理、サービス諸室を配し、居室群と食堂、浴室、交流広場など入所者の日常生活機能をすべて二階に纏めた明快なゾーニングが評価された。内部意匠において木質を多用し、伝統和風デザインをアレンジしたデティールを用いて、特に居室などに家庭的な雰囲気を出していて老人に対する配慮が見られる。付属デイケアセンターの屋根、本屋二階浴室上部の屋根、交流広場上部トップライトの屋根に緩い円筒ヴォールト状の屋根を掛けてアクセントをつけて、統一感ある外観構成を創り出すと同時に、周辺の景観に大して調和を意図していることも評価される。
【竺 覚暁】
一階に管理、サービス諸室を配し、居室群と食堂、浴室、交流広場など入所者の日常生活機能をすべて二階に纏めた明快なゾーニングが評価された。内部意匠において木質を多用し、伝統和風デザインをアレンジしたデティールを用いて、特に居室などに家庭的な雰囲気を出していて老人に対する配慮が見られる。付属デイケアセンターの屋根、本屋二階浴室上部の屋根、交流広場上部トップライトの屋根に緩い円筒ヴォールト状の屋根を掛けてアクセントをつけて、統一感ある外観構成を創り出すと同時に、周辺の景観に大して調和を意図していることも評価される。
【竺 覚暁】
富山県の民家の伝統的デザインの一つである吾妻建様式を現代和風で再構成した住宅であって、この点が評価された。納屋門と蔵、本屋という建築構成が踏襲されるが、納屋門は倉庫と車庫に充てられ、また本屋の構造には「ワクノウチ」構造はなく、その空間もなく、プランは通常の現代和風住宅のものである。吾妻建様式は従って外観のデザインにのみ継承的に実現されていて、それは成功している。
【竺 覚暁】
RC造三階建ての二世代住宅で、それぞれの所帯空間の分離と接近、また共用空間の配置など輻輳した空間配置を、三階建という条件のなかで、適切に計画していることが評価された。外観の意匠は住宅としてはやや硬く、情緒に乏しい憾みがあるが、インテリアの意匠は繊細で落ち着いており、要所に象徴性も見られ、優れている。
【竺 覚暁】
この住宅も、一種、吾妻建の現代化と言って良いデザインである。外観もそうだが、構造および空間においても、一階居間上部に吹き抜ける空間が吾妻建の手法である。さらにこの住宅は、材料に徳島の木頭杉を使い、全面的に伝統工法を用いて施工するなで、デザイン、材料、構法、工法にわたって伝統の継承と再生を試みたことが評価された。
【竺 覚暁】
明治末期(19世紀末)に建造され、後に造作部が改造されていた吾妻建住宅を解体移築し、その過程で復元を行うとともに、一部に改築を加え、さらに増築をした住宅である。「ワクノウチ」構造とその空間、またそれを取り巻く座敷などの諸室は造作調度を含めて殆ど完全に保存されている。全体の形姿も旧状を残したデザインである。文化財的価値のある歴史的建造物を復元保存しつつ、最小限の改築と増築を加えることによって、現代生活に適応させ、再生させた点が評価された。
【竺 覚暁】
入賞作品「新湊市博物館」は、円弧を描いてうねらせた主廊空間を展示空間に沿って外側に配置し、外部へ向かって大きな開口部を規則的にとり、かつこの開口部を外部にしつらえた高低差のある三つの水盤状の池と結びつけることによって、概して閉鎖的になりがちな博物館という建築空間を、変化と開放感のある空間としていることが評価される。高低差をもち円柱状の柱型をつけた円弧状の壁面がぶつかり合い重なりあっている外観の構成は、庄川産の紅石の粉の吹き付けによるサーモン・ピンクの色彩および表面を掻き落としたソフトなテクスチュアとが相まって、親しみ深く快い感覚を醸し出している。屋上パラペット頂部はやや出の深いコーニス状に納めてあり、これが建物に古典的なあるいは歴史的な雰囲気を与えている。それらの造形が一点に集中しているのがエントランス・ホールの空間であり、吹き抜け上部の望楼状のトップライトは、作品にシンボル性を与えると同時に周辺環境に対するランドマーク性を与えることに成功している。細部まで緻密に検討されたデザイン、優れた施工が評価された。また、この作品は隣接する入選作品「道の駅・カモンパーク新湊」との連関において設計されており、その点では二作品の関係性のデザインを評価する観点もあり、その観点からも優れたものがあると認められたが、本賞のこの回ではそれぞれ単体として評価することとなった。
入賞作品「桂湖ビジターセンター」は、RC造の躯体に木構造小屋組を架構した混構造である。その結果、積雪6mに充分耐えうる大空間を一階、二階に確保することに成功している。また、RC造の棟持柱と棟木に米松の登り梁とトラスを組み合わせた構造を顕わしとした二階インテリアは、この地方の伝統的建築、合掌造の優れた再解釈のデザインである。外観は精緻な施工で幾何学的な美しさのある打ち放しコンクリートの壁体と木造雨戸の材質及び色彩の対比が快い。しかし外観の印象を決定つけているのが大屋根のデザインで、基本的には単なる切り妻にすぎないのだが、棟木に大きなむくりを持たせ、妻側を幾分内側に傾けて切り落とし、銅版葺きとして屋根の端部を丸めたことで、芽葺き屋根の柔らかな質感と形態を連想させる効果を生みだしている。これら全体が桂湖周囲の景観と伝統にマッチして新たな魅力を生み出していることが評価された。
入賞作品「富山県水墨美術館」は、L字型平面を持つRC造平屋に瓦葺き寄せ棟大屋根を架構した和風を基調としたデザインで、その形態のシンプルさと大屋根の瓦面の均質で繊細な表情が端正な造形となっていることが評価された。また、展示室をつなぐ主廊空間を外部に面して配置し、全面ガラス張りとし、深い軒の出によって、外部の広い芝生の空間を室内に流入させた造形は、伝統和風の庇空間の再解釈である。インテリアも材質、色彩の種類を押さえ、シンプルであることを目指して成功している。
入選作品「道の駅・カモンパーク新湊」は、先にも触れたが「新湊市博物館」に隣接し、屋根付きの渡り廊下によって連結されている。博物館とは対比的な矩形平面でフラットな建物で、RC造の角柱が7m×7mの正方形グリッドを構成して規則的に立ち、それがデッキプレートにコンクリートを打設した陸屋根を支える論理的には単純な構成である。この単純な構成が視覚的、空間的に単純でなくなるの
は、この柱と陸屋根の間にあって屋根を支える三枚の三角形のリブ付き鋼板の視覚的効果である。いわば柱頭と梁を結合させたこのユニークの構造体が外観にもインテリアにも、ダイナミックな装飾的効果を与えている点は非凡である。これはF・L。ライトの造形を想起させる。また、大きな円筒形トップライトのデザインが陸屋根の単調さを破っている。屋根のパラペットも5層に見せたコーニス状のデザインで、鉄骨部のピンク色とともに博物館との連携性を表現している。こうした構造と装飾、空間造形のユニークな関係性の成功が評価された。
入選作品「富山市民プール」は、50mのメイン・プールと25mのサブ・プールを向かい合わせに配置し、その間の空間をサービスおよびサポート・ファシリティに充て、また、プール使用者の動線と観客の動線を一階、二階に分けた、利用者にとって視覚的にも明快なプランニングが評価された。また、こうした大空間建築はその外観において周囲に圧迫感を与えがちだが、この作品はプール大屋根をむくりを持って建物中央へ高くなるデザインとし、圧迫感を極力抑え周辺環境へ配慮がなされている。また、自然痛風、自然採光、可動ガラス間仕切りによる空調箇所の細分化、プール排水の再利用など、省エネルギーへの配慮も評価された。
入選作品「株式会社日平トヤマ福野第7工場(設計棟)」は、二階、三階の設計室をワンフロア間仕切りなしのオープン・スペースとし、オフィス・ランドスケーピングの手法でデスクを配置する開放的なプランニングだが、建物主軸に対し、平行、直角の配置と、45度をなす配置を組み合わせて、設計空間の等質化を避け、ある程度の分節化を行っている。この空間の開放性は、室中央に設けられた二階、三階を吹き抜け、上部にトップライトを持つ吹き抜け空間によって完成し、この開放感がこの作品全体のモチーフであり、成功している。同時にまた、この吹き抜け空間が各階の空間を二つの大きな部分に分節化している。開放のもたらす快適さと空間の均質性、単調さという矛盾を、開放それ自体の仕方によって解決したところが評価される。また、外観の白い断熱鋼板とブルー・グラスを均整のとれたプロポーションで配した幾何学的な美しい構成、エントランスの大きなガラス開口部は、精緻な施工と相まってデザインを清潔感に満ちたものにしている。
入選作品「大門町改良住宅」は、二階建て3LDK二戸、二階建て3DK二戸、平屋2DK二戸からなる小規模公共集合住宅計画で、これを伝統的木造によって実施したというユニークさが評価された。そのデザインも一階部分の壁を焦げ茶に塗られた杉の南京下見、妻壁と二階部分を漆喰プラスター仕上げの白壁とした対比は、庄川平野に多い伝統的造形に棹さすものであり、環境との連続性を確保している。また、住戸間の通路には、雪囲い通路と設計者の呼ぶアーケード状の雁木を思わせる通路がしつらえてあって、冬季の積雪に備えるとともに、コニュニティの形成をはかっている。公共住宅にありがちな無機性、孤立性を克服する試みとして評価された。
住宅の部の入選作品「竹澤邸」は、不整形のいびつな形の敷地に建つ住宅で、敷地を最大限に利用するために円弧状の平面計画となった。構造もこの計画を可能とするためにRC造と木造の混構造が採られた。一、二階とも廊下沿いに各室が並ぶ平凡な平面だが、しかし、外観のデザインは混構造の対比を生かすべくユニークさをねらった意欲的なものが見られる。またインテリア細部にもそれが認められる。敷地の悪条件を可能な限り利点に転換しようとする設計意欲が評価された。
【審査委員長 竺 覚暁】