平成25年度 第44回富山県建築賞受賞作品

審査総評

この賞の目的から、富山県内の地域社会の発展に寄与し、かつ優秀な建築作品を選考しなければなりません。前者がなかなか定義しづらいものでした。今回の審査では、作品の中に富山県の「何か」を感じながら優秀な建築を選考することにしました。ここでの「何か」はそれぞれの作品に見いだせる、富山県にとって意味ある主張や技術などです。その上で優秀な建築ということになります。

今回の応募作品数は、一般の部3件、住宅の部9件でした。応募作品数は年度により増減があると思われますが、今回は昨年のそれぞれの数7、18に比べますとおおむね半数となっています。平成25年度は少ない年のようです。それでは、応募作品を概観しましょう。

一般の部では、それぞれ作品の富山県の「何か」についてが、はっきりと異なっているものでした。高度な消防訓練と防災の啓蒙を担った作品、長く愛された校舎を現代に適応させその寿命を延ばした作品、富山の文芸文化の拠点として周景に融け込んだ作品です。それぞれの特徴が異なるので比較に苦労しましたが、綿密な計画と丁寧な施工による造形という観点から見ると差を感じ取ることができました。防災施設は、消防学校および訓練施設に高い使命を感じとれました。耐震改修を契機に現代に蘇らせた校舎は細部にわたっての気配りが感じられました。文芸文化の拠点では、建築物そのものにもまたランドスケープとの統一感に高いものを感じました。

住宅の部では、風土に合った作品、設計者と施工者のよい協働の作品、過去の住まいの記憶を引き継ぐ作品、心地よい光の空間を持つ作品、木材の理にかなった利用の作品、挑戦的というか実験的な提案の強い作品、など、いずれも施主の要望を最大限に具現化した作品でした。これらの要望は富山県の「何か」にすべて通じるものでした。富山県の郊外では敷地が広くて住宅の設計の自由度が高いように捉えていましたが、不動の土地に施主の個別な事情が存在することから、あらためて住宅設計の難しさを目の当たりにしました。すべての作品には、それぞれが有する課題を解決した部分を強く感じ取れましたが、いずれの作品にもこうであればなあ、とさらなる期待への講評が入り、審査員一同が手をたたいてなるほどと思わせるまでに至らなかったことから優秀賞作品を選出できませんでした。

【審査委員長 秦 正德】

一次審査会の様子

一次審査会の様子

一般の部

優秀賞 舟橋村立舟橋小学校

舟橋村立舟橋小学校

舟橋村立舟橋小学校 内観

所在地
中新川郡舟橋村竹内338
建築面積
2108.15m²
延床面積
4627.46m²
竣工
平成21年12月27日
建築主
舟橋村
設計者
富山県建築設計監理協同組合
施工者
近藤建設(株)

講評

明治32年創立の舟橋村立舟橋小学校は、村民と共同体の記憶を培う中で、RC造3階建ての校舎が昭和48年に建設されました。応募作品は、新耐震基準を満たすために、使いながら逐次改修するという経済的な方針が採られたものです。一文字型校舎の中央部南側にクラスターが加えられ、上二層の接合部分はラーニングセンターに当てられました。旧玄関は教職員・来客専用となり、反対側に生徒用出入り口が設けられ、給食調理配膳部分はその上の特別教室と共に機能分節されています。教室や廊下だけでなく全ての空間、設備が快活にかつ安全に演出され、体育館の内部、開口部、ピロティも、リノベーションの味わいと創意に満ちた工夫や意匠が加味されています。耐震ブレース部分は、リズミカルなファサードで更新されています。

助成基準等の制約があったのかも分かりませんが、付加したクラスター部分が単純に直交するのではなく敷地形状に合わせて角度を振らすことで、広角側の開口部からの、ラーニングセンターへの、より十分な採光と換気が可能とされ、南側の内外部の空間や形態に必然的で魅力的な転調を与えることもできたとも思われます。とはいえ、歴史的には重要な建築ではないこの校舎への村民の愛着を次の世代へと継承するにふさわしい品格を、あらゆる位相で呈しているこの作品は、生徒にも良い影響を与える豊かな教育環境のリノベーションの模範であり、入賞作品として高く評価されました。

【 松政 貞治 】

優秀賞 高志の国文学館

高志の国文学館 外観

高志の国文学館 内観

所在地
富山市舟橋南町2-22
建築面積
2771.99m²
延床面積
3106.7m²
竣工
平成24年3月29日
建築主
富山県
設計者
(株)シーラカンスアンドアソシエイツ
施工
【展示棟】日本海建興・三由建設・ミヅホ建設JV
【旧知事公館】酒井建設(株)

講評

富山市中心地区において、城址公園と松川の遊歩道は「歩いて楽しいまちづくり」の核になっています。この松川の園路から少し内側に入った位置に本施設が建設され、松川と本施設の間も同時に庭園として整備されたことで、松川の散策路が街の中まで引きこまれ、「通り庭」と「土間」を介して街中へと繋がる回遊路が生まれました。また、これまでクローズされていた旧知事公館の庭園もこの回遊路に開放され、松川から連続する良好な緑地帯が街へと広がり、庭園と建物が一体となった魅力あるランドスケープが生まれました。

施設の構成は明快で、展示室等の閉鎖的な空間を「蔵」、蔵の周囲を通過・滞留・交流する場を「土間」に見立てています。県の施設として、「蔵」の壁は地場産業をアピールするアルミ鋳物パネルで覆い、「土間」の天井は県産材の杉で大胆に仕上げています。エントランスの大庇周りの庭園のパノラマ、天井の高さの抑揚、上部からの柔らかい光、庭が垣間見えるシーンなど、空間演出の見せ場が連続しています。また、展示設計や家具デザインの完成度も高く、総合的に高いレベルの公共施設になっています。一方、社会が注目する新しい展示系施設として、次の時代を予見させる建築計画・意匠面の新奇性を提示し、建築界を啓蒙する表現があってもよいのではないかと思いました。

【 蜂谷 俊雄 】

入選 富山県広域消防防災センター/富山県消防学校/四季防災館

富山県広域消防防災センター/富山県消防学校/四季防災館

富山県広域消防防災センター/富山県消防学校/四季防災館

所在地
富山市惣在寺1090-1
建築面積
8104.75m²
延床面積
12730.02m²
竣工
平成23年12月28日
建築主
富山県
設計者
東畑建築事務所・鈴木一級建築士事務所 JV
施工者
【第1工区 四季防災館・管理施設(消防学校)・宿泊施設】近藤建設・相澤建設・松原建設 JV
【第2工区 屋内訓練施設・備蓄倉庫】 砺波工業・前田建設 JV
【第3工区 実火災訓練施設・主訓練塔・水難救助訓練施設】射水建設興業・酒井建設 JV
【第4工区 補助訓練棟A棟/B棟/C棟】 辻建設(株)

講評

安全・安心な暮らしの確保、多様化・大規模化している火災等に対応できる消防職員・消防団員の育成、防災知識の普及啓発を図ることを目的として、「防災拠点施設」、「消防学校」、「学習施設」の3つの機能で構成されています。消防防災活動を担うこのような拠点機能を富山県にもたらせた意義は大きいと考えます。

北東交差点から東側施設正面へと近づくにつれ、施設の全貌が見渡せ、建物全体が来訪者を迎え入れるような形態となっています。各施設は、それぞれの機能を持つ棟ごとに分節化されており、水平ラインを強調した半屋外空間の「アクティブモール」が各棟を繋ぎ合わせています。

メインエントランス手前に、シンボリックに配置された体験型学習施設(四季防災館)のガラス張りのファサードは、内部の施設や体験者の様子を屋外からも感じ取ることができます。この館の疑似体験装置は人の限界を知るよい機会を提供しています。これらの体験と有機的に繋がった展示がなされると良いと思われました。

消防学校においては、光庭やテラスが効果的に配置され一体感のある明るく開放的な空間となっていました。防災と災害救助活動など県民の生命と財産を守る使命感を、直線で構成された造形に感じとることができました。13階建て、高さ45mの主訓練塔は、その機能をうまくデザインし、防災拠点の力強いシンボルとなっています。

【 秦 正徳 】

住宅の部

入選 多角形の家

多角形の家

多角形の家

所在地
中新川郡上市町上経田
建築面積
196m²
延床面積
221.27m²
竣工
平成23年12月15日
建築主
岡嶋 次男
設計者
水野建築研究所
施工
米井建設(株)

講評

住宅部門の審査をしながら、1979年の『新建築』時評「平和な時代の野武士達」(槇文彦著)を思い出しました。この言葉は大組織で「禄を食む」ことなく、自分を貫き力強く生きる建築家像を比喩した表現でした。今回の現地審査で説明された6名の設計者が、それぞれの作品に、施主の夢を実現するために厳しい条件下で格闘し、自分の道を突き進む姿を拝見し、この言葉が蘇ってきました。

優劣を決めるための審査会ですが、施主要望・敷地条件・コストなどが個々に異なり、簡単に比較できるものではありません。施主の夢は各々に異なり、また実現へのアプローチの手法も様々ですが、そのプロセスで発揮されたデザイン力・技術力・独自性・執念などを比べることはできました。このような視点で審査をすると、本作品が最も高いレベルにあるように思えました。例えば、微妙に折れる平面に対して、短手方向に傾斜屋根をかける一般的手法に留まらず、さらに長手方向にも傾斜させた屋根形状は、審査図面を見る限りでは一見複雑で奇異に見えました。しかし、内部の吹抜空間に入ると、微妙な変化と動きを感じさせる独創的な空間演出であることがわかり、木造住宅の新たな可能性を発見することができました。また、建物形状や屋根架構の検討プロセス、南側立面が光を受けて微妙に折れ曲がり変化するシーンなど、設計レベルの高さを感じました。

【 蜂谷 俊雄 】

入選 磯部町の家

磯部町の家

磯部町の家

所在地
富山市磯部町
建築面積
116.64m²
延床面積
168.42m²
竣工
平成24年3月23日
建築主
諏訪 佳世子
設計者
(有)青山建築・計画事務所
施工者
(株)頼成工務店

講評

住まい手の暮らし方と周囲の環境に折り合いをつけるのが、限られた立地の住宅では課題の一つとなると思います。この住まい手は友人との交歓を楽しむ仕掛けとなる住宅を求められていたということです。富山県の交通事情から来客の複数台の車を駐車させるのに、大通りに面した元の町並みの線から前面すべてをセットバックさせて必要な奥行きを確保しながら、町並みの線を乱さない植栽を配置したシンプルな表情の外壁面となっているところに好感が持てました。

路地のような空間に続く玄関を入ると、ほどよい量の木材を配置した、もてなしの空間が構成されています。おそらく料理の得意な住まい手なのでしょう、客が座って坪庭を眺めながら対面で接待できるカウンターが仕組まれていました。客の目に入る坪庭の背景となるガレージに置かれた車が気になりましたが、居心地のよい光の入る非日常的な雰囲気を感じることができました。

これらの空間を構成する木材は、適材を峻別するために含水率はもとより強度を非破壊で測定したということでした。木材を利用するときに富山県に定着して欲しい技術です。また、空調機一台だけですべての部屋の温度を個別にコントロールするシステムを構築し、快適な居住性を得るとともにエネルギーの消費量を抑えることにも成功しているようでした。家族というくくりでない生活を営むこの住宅は、これからのコミュニティのための場を示していると思われました。

【 秦  正徳 】

入選 津幡江の家

津幡江の家

津幡江の家

所在地
射水市津幡江
建築面積
170.58m²
延床面積
214.21m²
竣工
平成24年2月21日
建築主
梅川 滋誉
設計者
DOKO一級建築士事務所
施工者
藤井工業(株)

講評

素材とカタチで記憶を残す・・・この家は依頼主の生まれ育った地に生まれ育った家の材で新築した住宅です。年月を経て味を持った格子・柱や梁・天井板・建具が、新しい顔とセンスで、さりげなく新たな場を得ていました。

依頼主が気に入っていた格子から暮らしの灯りが柔らかく外に漏れ、小さく絞られた玄関から広がる和の空間は、富山の杉板と畳と馴染んだ建具とでプロポーション良く整えられています。居間には以前の家から引き継がれた柱と梁がしっかりと姿を見せて存在し、新しい家族を見守ります。梅の老木を居間から見ることができるよう以前と大きく平面を変え、台所・居間・庭へのたたき・梅の木、と軸線と視線を一直線に整えると同時に、シンプルな動線のコンパクトな生活空間に仕上がっていました。

学生の頃から木材に親しみ、自作の木製家具を愛用している依頼主の思想を、設計者は充分に汲み取り上質にまとめ上げています。また、部分的ではあっても塗壁で仕上げること、丁寧に解体して材を蘇らせた大工職人の技など、素材の選択は富山の本物と職人を守り育てることへの大きな貢献です。

今後、広い前庭や裏庭を緑豊かに作っていかれると、重厚な外観も和らいで町と繋がるでしょう。要塞のように閉じられた住宅が増えるこの頃、建築はできる限り開いてほしいと私は思っています。カタチで開いて気配で繋がる、庭で開いて緑で繋ぐ、健やかな家々が町につながっていくことを願います。

【 加藤 則子 】