平成28年度 第47回富山県建築賞受賞作品

審査総評

審査に先立って「富山らしさ」とはなんだ、という意見交換をいたしました。地域とともにあるための要因は、文化や風土に醸成された生活、色合、構法、材料などに求めることができるように思います。そういったことへの解答を、伝統としてそのまま伝承するのではなく、これからの富山の建築の方向性を具体的に呈示することが、富山の建築に資することに通じると考えています。細部にわたって考え抜かれた結果を外連味なく造形された出来栄えに求めているように思います。今回の応募作品には上に書いた「らしさ」の要素が香るのですが、この手があったか、と手を叩いて納得させるものは多くなかったように感じられます。

一般の部では、長年使って県民に親しまれている、造形としてのランドマークというより、生活のなかのランドマークとなっている建築のレトロフィットに感心させられました。地域の祭事の文化を継承させる会館には、どのような建築にもつきものなのでしょうが、地元の数々の要素を破綻することなくよくまとめられたな、とご苦労の結晶が伝わってきます。これからの子供たちを大切に育みたいという願いの感じられる、心豊かな安心できる造形もありました。

住宅の部においては、今回は優秀賞の該当はありませんでした。模範解答に近い作品はあったのですが、富山のレベルアップへのさらなる牽引を期待した結果です。日常の生活空間である内部はどの応募作品にも提案が見受けられました。内と外をつなぐなるほどと思わせる仕掛けもありました。富山県の生活から、車と雪は外せません。車庫の多くは道路に面しますので、街並みを形成するファサードに大きくかかわります。車庫の配置や見せ方に一石を投じてほしいところです。また、建築の耐用年数に大きくかかわる地域クライメート・インデックスという指標がありますが、これによると富山は九州中南部に匹敵する環境と指摘されています。外壁の耐久性や雨仕舞に一層の注意が必要と思われます。

【審査委員長 秦 正徳】

 

一般の部

優秀賞 富山県民会館リニューアル

所在地
富山市新総曲輪4-18
建築面積
4,256.4m²(全体15,660.84㎡)
延床面積
17,326.63m²(全体69,097.07㎡)
竣工
平成27年3月13日
建築主
富山県
設計
富山県建築設計監理協同組合
施工
佐藤工業・石坂建設・塩谷建設JV 篠川電設工業・高陽電機JV 松下工業・成憲JV 鈴木工業・クレハロJV 石坂建設・砂原建設工業JV 北陸電気工事・インテックJV 丸谷工業・明希総合設備JV 塩谷建設・相澤建設JV 石坂建設㈱ 酒井管工建設㈱ 朝日建設㈱

 講評

1964年以来、半世紀に渡り富山市中心地の都市の原風景として県民に長く親しまれてきた県民会館がリニューアルしました。施設の内外装の様々な部分で、ガラス加工、越中和紙、銅器の着色材、地元産安山岩など、県産材や地場の技術などが積極的に活用されています。
一方、改修技術としては高層会議室棟の耐震改修工事に注目しました。当初は耐震ブレース工法であり、147箇所の耐震ブレースが必要でしたが、この場合には、平面計画や眺望不良などの課題があり、改修後の施設の機能性が大きく低下することが予想されました。そこで設計者は、上階の構造を残しながら耐震性能を向上させる免震レトロフィット工法を提案し、コスト対効果も検証しながら工法を変更しています。この決断が正しかったことは改修後の姿を見れば一目瞭然です。しかし、新幹線開業までに完成させるという設計・施工の期間短縮の課題や、極めて難易度の高い施工が求められることは予想できたはずです。限られた文面では記述できませんが、現地審査で設計者から説明を受けた瞬間に、この英断がいかに設計・施工関係者の高い技術力と努力に支えられたものであったかについて、同様の大規模施設の設計監理を体験してきた私には直観できました。
施設がリニューアルされて快適になったという県民の評価とは別に、これを実現するために、見えない地下部分の設計・施工において、多くの地元建築技術者の賞賛に値する努力があったことを、本審査会として富山県の皆様に強くアピールしたいと思います。

優秀賞 高岡御車山会館


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所在地
高岡市守山町47-1
建築面積
1,483.12m²
延床面積
2,681.97m²
竣工
平成27年3月10日
建築主
高岡市
設計
㈱創建築事務所
施工
寺崎工業・射水建設興業・江尻工業・中越ロジスティクスJV (学)富山国際職藝学園乃村工藝社・サンテン・コーポレーションJV

講評

高岡御車山祭の、伝統や工芸技術を紹介して、町の拠点の1つにしていこうという展示施設です。普段は解体されて各地域で保存されている7ヵ町の御車山を、1基ずつ数ヶ月交代で、この施設内の巨大なガラスケースの中に展示するということです。
重伝建保存地区の町家の、伝統的ファサードの姿や素材を慎重に復元しながら、高さ7メートルもある御車山を展示し搬入出する大空間を、ガラスの箱として圧迫感を減らして入れ込み、県内最古級の蔵も曳家するなどして、全体の空間をまとめています。
例えば、大壁面をつくっているアルミ鋳造板は、リサイクルでありながら色調も整えるなど、随所に高岡の産業素材と職人の技が、今の時代に有効にアレンジされてちりばめられ、新しい魅力を提示しています。できれば、内部空間にも、町家の伝統的な設えの復元が欲しかったという審査員全員の意見でした。
祭りに関わる町衆たちの熱い想いを汲み取り、7ヵ町の意見をまとめあげるには相当な困難があったと思われます。だからこそ、今後、御車山の荘厳で神聖な魅力をより引立てるべく、質の高い施設としての、設えの維持管理と運営の提案をしていくことが肝要と思います。
訪れる観光客、使う町衆やここで働く人々全てに愛されて、永く活かされていくことを願います。

入選 さみどり認定こども園

所在地
富山市千原崎2-4-23
建築面積
482.34m²
延床面積
390.95m²
竣工
平成24年5月1日
建築主
(学)萩浦学園
設計
㈱鈴木一級建築士事務所
施工
石坂建設㈱

講評

この保育園は富山市北部の第一種住居地域の変則的な形状の敷地に計画されました。北側の堅牢そうな既存建物とは対照的に柔らかな棟となっています。三方向の隣地との適度な距離感と保育に必要な外部空間が確保できるようにスタディを進める中で「まゆの家」が着想されました。実際の繭は左右対称であるのに対して少ししなりがあるのは生命感を表現しつつ隣地に合わせたからだとのことです。
そのコンセプトからはチューブかヴォールトの断面形状が最初に思い浮かびましたが、図面と写真では繭の形は徹底されていないと感じていました。しかし訪れてみると、柔和な曲線が生み出す形態と、隣家の位置に合わせた開口部と壁の分節と、「置き屋根」の効果により、明るく通風の良い内部空間が実現されていました。柱や床、天井の緩やかなねじれが、一体感と動きのある空間全体にリズムを付け、腰壁や間仕切りがそれぞれの場所の抑揚を成し、年齢別の保育の視認安全性も確保されています。しかも、周囲や外部の変化が感じられ、子供たち同士で得られる刺激が大切にされています。隣家との間には十分な緑が設けられ、深い庇と縁側が内外を結びつけています。外観はプロポーションに優れ、隠喩的な形態を気品よくまとめています。内外空間の趣味の良さは、直接的な記憶には残らないにせよ、光や音、人や自然との触れ合い感など、豊かな空間経験として、子供たちに大きな影響を与えるに違いありません。

住宅の部

入選 音羽町の家

所在地
富山市音羽町
建築面積
170.47m²
延床面積
169.75m²
竣工
平成26年12月18日
建築主
酒井 久義
設計
㈲青山建築計画事務所
施工
米井建設(株)

講評

存在感の無い存在に魅かれます。
閑かにゆったりと迎えてくれるファサードです。
向うの隅には、密やかにガラスの玄関。
そこから続く、収納だけの、白く潔い壁を通り過ぎると、そこは開放された家族室、程よいスケール感の暮らしの真ん中です。
芝の広い中庭からロフトの窓へ、大きく風が動きます。
暮らしの機能をおおらかに括りながらも、細やかに造り込まれた、洗練されたカタチがそこにありました。
細長い土地を大胆に仕切り、奥にギュッと凝縮された家族の空間、メリハリの効いた、明快で削ぎ落とされたプランです。
住まいと暮らしに夢を持って、理想のカタチを求めて来たクライアントが、そのカタチをさらに極めて実現させてくれる設計者と出会い、そして、その極まったディテールを叶え得る施工者が在り。三者が対等に応えあった、幸せな仕事の住まいです。

入選 白い家

所在地
高岡市開発本町
建築面積
107.5m²
延床面積
135.58m²
竣工
平成26年4月10日
建築主
橋場 紀尚
設計
一級建築士事務所水野行偉建築設計事務所
施工
藤井工業㈱

講評

外観は真っ白な外壁の単純な家型であり、窓の開口を最小限に限定し、光を主に東側のトップライトから集中的に入れています。これは南側に大きな開口を設けて室内を明るくする住宅の常識に縛られない大胆な発想です。室内が暗いのではないかという疑問がありましたが、中に入ると半屋外的演出の2階のパティオに上部から射し込む光が2階に広がり、さらに階段の吹抜を介して1階のホワイエまで拡散しています。部分的なトップライトの光がこれだけ効果的に家全体に明るさ感をもたらすことを改めて体験しました。
本作品の最大の特徴は2階のパティオです。ここは室内に光を拡散させる光の筒であると同時に、その左右に配されたダイニングや居間とも連携して2階全体に連続感を与える核にもなっています。このような中とも外とも認識できる場所として、日本古来の土縁空間が北陸では冬季にガラス戸を入れて屋内化されたことや、現代ではサンルームなどが重宝されていることが想い浮かびます。そしてこのパティオは、この両方の意味を包含しつつ、日本的土縁とは対極にある陽性の光庭として、北陸とは異質な地中海的魅力も感じさせます。また、2階の広がりは単純な空間の繋がりではなく、心地良い形でくり抜かれた開口のある間仕切壁を挿入することで、全体を見せず、次の場所を垣間見せながら次の景に期待をもたせる日本古来の演出手法にも通じる魅力を感じさせてくれます。

入選 川沿いの昇り屋根の家

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所在地
富山市黒瀬
建築面積
93.45m²
延床面積
98.97m²
竣工
平成26年3月25日
建築主
梶田 誠
設計
㈱米三dot studio 一級建築士事務所
施工
光陽興産(株)

講評

この家は富山市の南東周縁に位置しています。木工所を経営するオーナー夫婦のための木造一戸建て住宅です。複雑な形状の敷地のほとんどを占める鉄骨造平屋建て工場の、土川に面する1スパンを解体したほぼ三角形の部分を利用しています。
近所に住む子供夫婦や孫とも過ごすことができるリビングを中心に、プライバシーが確保された寝室とコンパクトな水回りとが分節されています。菜園が趣味の夫人の、テラス先から堤防を散歩する近隣住民と気軽に近所付き合いがしたいという希望から、南西に面する川面の風景が開いています。心地よい風を2階にまで誘い込むことができる吹き抜けと一枚屋根が主題にされました。西日を避ける庇の下は自然への適度な開放感があります。その佇まいは木造の鯉が川沿いをゆったりと昇っているかのようです。
狭小で異形の敷地の文脈を生かしたリビングの昇り天井と「あらわし」の垂木の上昇感、白い壁や天井面、階段の様々な面や線が織り成す飽きることのない豊かなパースペクティヴは、家族の憩いを演出し、夫婦の穏やかな生活に彩りを添えています。ポルトガルの建築家アルヴァロ・シザの線と面が多義的に絡む構成や、ル・コルビュジエがサヴォワ邸のスロープの天井で丁寧に紡いでいた変化を思い出しました。ただ、階段の意匠や敷地西角部の扱い、二階の寝室の造作などには別の解決策もあったのではないかとの印象も受けました。