平成26年度 第45回富山県建築賞受賞作品

審査総評

富山県の建築文化に資することを念頭に審査を進めました。建築文化の解釈は委員それぞれ異なると思われますが、昨年も指摘しました富山県に良い影響を与える「何か」がしっかり具現化されていることを、委員相互の意見交換により確認し合いながら審査を進めました。
この「何か」は、富山県の日常に潜在する有形無形の資源を、緻密な計画、技術の伝承と革新により開花させるところに見いだされると思われます。具体的には、富山の宝となりうる建築物のコンバージョン、伝統の技をさらなる次元へと誘導、過去の記憶を定着、施主の意向の形象、快適な生活環境などを考え抜かれた痕跡として理解でき、全体の統一感が出来栄えとして完結しているところを評価しました。
今回の応募作品数は、一般の部9件、住宅の部15件でした。昨年の応募数がそれぞれ、3件、9件でしたので、総数で見ると応募作品数は倍増ということになります。
審査は部門毎に、一次審査、二次審査と進め、一次審査では、応募書類(図面、写真、作品の説明)を閲覧した後に、審査員の合議により現地調査の候補作品を選定しました。可能な限りの作品を現地調査する方針とし、一般の部5件、住宅の部8件を選定しました。応募書類では見られない環境との調和・出来栄えについて現地に赴き調査しました。審査に協力していただいた諸氏には感謝いたします。
現地調査に次ぐ二次審査では、冒頭に書きました趣旨を踏まえて現地調査結果を元に表彰作品として、一般の部3件(優秀賞1件、入選2件)住宅の部5件(優秀賞3件、入選2件)を選定しました。

【審査委員長 秦 正德】

 

一般の部

優秀賞 若鶴大正蔵

若鶴大正蔵:北側外観若鶴大正蔵:研修室

所在地
砺波市三郎丸208
建築面積
794.16m²
延床面積
990.89m²
竣工
平成25年3月31日
建築主
北陸コカ・コーラボトリング㈱
設計者
蜂谷俊雄+㈱金沢計画研究所
施工者
松井建設(株)北陸支店

講評

富山の清水を活用した地場産業である酒造りの仕込みを行っていた工場を、蔵のイメージを損なうことなく、切り妻の大屋根を有する研修所として蘇らせました。表通りに面する妻面の漆喰大壁により蔵の景観を現し、他方の妻面は近代的な和風のファサードを構築しています。このアプローチが建物の入り口となっており、夕闇に漏れる光が美しい。
いずれの桁行き方向の壁面も控えめな漆喰と特徴ある開口で仕上げた蔵をイメージさせ、この地の酒造りの記憶を保持しています。おそらく既存の木構造では耐震性能が不足していたと思われ、構造的にも興味ある改修をしています。主要な構造は、2重の屋根の登り梁をトラスに組み、両側の柱にバットレスを加えて山形の不静定ラーメンを構成し、これにより架構の剛性と強度を確保しています。バットレスのないファサードを構成している屏風のような壁面も張間方向の耐震性能に寄与しているとも思われます。この部分をさらに強化してステージの中央に位置する棟持ち柱を取り去さることも検討されたのでしょう。
細部にわたって詳細に検討された痕跡が感じられました。初期の構造である太い棟持ち柱を列として内装に残すことで蔵の空間を彷彿とさせる意図は成功しており、最盛期の仕込みをする職人の声が響き渡るような空間となっています。

【 秦 正德 】

入選 富山県立雄峰高等学校

雄峰高校(外観)雄峰高校(内観)

所在地
富山市神通町2-9
建築面積
3,556.64m²
延床面積
9,368.09m²
竣工
平成25年3月22日
建築主
富山県
設計者
GA開発研究所・建築科学研究所JV
施工
【東校舎】近藤建設・相澤建設JV 【北校舎】射水建設興業・酒井建設JV 【南校舎】塩谷建設・林建設JV 【体育館】石坂建設・村松建設JV【外構】松原建設㈱

講評

富山駅西方向、神通五差路近く、ケヤキ並木の残るさくら通りに面して建つ鉄筋コンクリート造4階建て、県立の定時制・通信制の単位制高校と生涯学習カレッジが併設された複合用途施設です。キャンパスは開放的であり、そこを訪れる人々の記憶を穏やかに支えています。建物のファサードを前面の歩道に沿って違和感なく構成しているだけでなく、敷地内にあった近隣住民が行き来していた小学校への細い道の記憶をとどめるために、キャンパス内に通りを設けています。さくら通りから歩道と一体になったアルコーブは、グラウンドまで見通せる明るく開放的で通り抜け可能な中庭へとつながり、周辺住民が犬を連れての散歩道になっています。
2~3階正面に設けられた、立山連峰の稜線の高低差をその間隔で表現したという縦ルーバーは、見る位置により建物の印象が変わるファサードとなっており、町並みに変化をもたらしているほか、内部空間については、内装としての木材の使い方も控えめで、近年の木質化にみられる野暮ったさがないのも好感が持てます。また、オープンカウンター形式で開放的な職員室等、施設全体が温かみの感じられるものになっています。

【秦 正德 】

入選 遊部住宅のぞみ

遊部住宅のぞみ(外観 東側全景)遊部住宅のぞみ(囲まれた広場)

所在地
南砺市遊部780-2外7筆
建築面積
1,785.23m²
延床面積
3,735.41m²
竣工
平成24年8月31日
建築主
南砺市
設計者
㈱創建築事務所
施工者
福光組・チューモクJV

講評

本施設は、旧福光市街から北東方向に伸びる県道砺波福光線に面する鉄筋コンクリート造3階建て2棟、44戸からなる南砺市の市営住宅団地で、瓦仕上げの勾配屋根や色分けされた外装の色彩等、周辺への威圧感を低減し、田園景観との調和に配慮した施設となっています。
南北に長い不整形な敷地の中に、建物軸線を敷地境界線に合わせて東西に並列配置された住棟と、敷地中央に整備された馬蹄形の庇をもつ集会所を配置し、それらを結びつける1階が通り抜けられるブリッジや雁木通路により、施設全体に回遊性を持たせるとともに、柔らかく囲い込まれた中庭空間を創り出しています。
¥中庭に立つと、建物外周に設けられた共用廊下とサンルーム・ベランダの陸屋根部分により、瓦の勾配屋根が視界から消え、遠景として見た時の田園景観と調和させた外観とはうって変わって、明るい都市広場的な雰囲気を醸し出しています。
10戸あるシルバーハウジング住戸だけでなくすべての住戸のサンルームをバリアフリー化しており、玄関前のアルコーブや住戸内に廊下を作らない効率的な平面計画、床から天井までの高さを持つ間仕切り建具等多様な生活スタイルに対応できる提案がなされていました。

【 篠島 弘男 】

 

住宅の部

優秀賞 木津の家

木津の家(外観)木津の家(内観)

所在地
高岡市木津
建築面積
134.34m²
延床面積
213.14m²
竣工
平成23年11月2日
建築主
福井 功政
設計者
㈲濱田修建築研究所
施工
日本海建興㈱

講評

「木津の家」は、高岡駅の西側の木津地区にある閑静な住宅地に位置します。北東側に前面道路がある南西向きの敷地で、RC造の両親の家の北西側に隣接して若い夫婦一家のために別棟として建てられました。二世帯が適度の距離感と一体感の両方を享受できるように設計されています。玄関も庇や構造体の表出部も、両親の家側に志向的に関係付けられ、施主が幼い頃から慣れ親しんだRC造の感触が、型枠の木目によって和らげられた上で、内部にも及んでいます。
両親の家の側壁との間隙には中庭が配され、一階のリビング、ダイニング、二階の二つの洋室は、愛着のある大きな庭に向けて30度振られて、両親の家との互いの視線の交錯を避けつつ、庭に南面するよう工夫されています。内部は、木の床や天井とRC造とが適度に馴染み、30度に振られた角度が天井のレベルの変化にも連動されています。またその鋭角を利用した階段を上がるとともに、踊り場や二階の隅部に設けられた湾曲は、床や天井の木部の湾曲と一体になり、さらには天井の変化や間接照明の効果も重なり、アルヴァー・アアルトを思わせる、主寝室への感動的なパースペクティブを構成しています。
車庫の扱いなどの気候風土への関わり、両親の家との、機能と表現の両面での巧みな関連付け、両棟を連動させての街並への参加、内部空間の完成度など、どの点においても、施主の好みや感性、設計者や施工者の熟練味が現れています。

【 松政 貞治 】

優秀賞 高岡の家もみじ

高岡の家もみじ(外観)高岡の家もみじ(内観)

所在地
高岡市佐野
建築面積
113.33m²
延床面積
148.45m²
竣工
平成24年11月1日
建築主
宮脇 明
設計者
伊礼智設計室
施工者
㈱ミヤワキ建設

講評

数寄屋のようにも感じた大壁造りの新しい和の空間を有する住宅です。階段の踏み板のアールをはじめ建具、天井なども細部にわたって詳細に考え抜いて、大工による仕事で構築しています。富山固有の大工の優れた技術を将来へと伝承し改革を牽引するディテールのようです。
直線と直角で構成される木造軸組構造を手がけてきた大工にとって、吹き抜けの空間を覆う雲のような曲線の繋がる天井を仕上げるのは苦心の作であったと思われます。全開する開放的な木製窓には網戸も取り付けられています。押し入れのような狭い寝ころべる書斎空間は主人が楽しむための面白い仕掛けです。雑木を植栽した四季の変化を楽しめる庭に建物から突き出た木製デッキは、とりわけ初夏には心地よいコミュニケーションの場となることでしょう。
子育てを終えた夫婦の「終の住み処」として、施主の要望に応えていると思われますが、施主のイメージをそのまま具体化するのではなく、設計者がそれ以上の仕掛けを呈示し、多様な要素が統一感を持って構成されているところに注目するとともに、大工技術の可能性の広がりを示唆しています。

【 秦  正德 】

優秀賞 堀の住居

堀の住居(内観)堀の住居(外観)

所在地
富山市堀
建築面積
117.77m²
延床面積
157.27m²
竣工
平成25年3月31日
建築主
古村 賢二
設計者
中斉拓也建築設計
施工者
㈱金谷工務店

講評

研がれたナイフで気持ちよく切り込まれたカタチです。住宅地の長年の空き地に建てることへの細やかな配慮が、全体のプロポーションの美しさに現れています。
裏面が隣家にとっては表側に面するのはよくあること、だからこそお互いに良い借景を提供し美しい背景と成り得たいものです。明るいグレーのガルバリウム外壁は無機的になりがちですが、面の構成と窓から漏れる灯りと相まって、正面だけではなく裏面も威圧感なく優しく整えられていました。
冬の雪と夏の日射しを避けたい富山の家の駐車場。これも無機的になりがちな現実にしっかり眼を向け、住まい部分と中庭にうまく繋がらせています。また、そこから暮らしの気配がさりげなく通りに漏れてくる景にもほっとします。
内部は、落ち着きある色調で統一された板張りの床や壁面、木製の家具や建具の主張しすぎない存在感、建具の納まりなどの完成度が高く、眼に邪魔になるものが在りません。また、依頼主の家事の習慣やこだわりに丁寧に答えている姿に、設計者のまじめさと優しさと繊細なセンスを感じました。
「外居間」と言う中庭と居間とを誘い合うような角度で繋がらせた境界は絶妙。母娘が気軽に行き来して外の空気を楽しんでおられ、また依頼主夫婦の趣味であるダーツのための細長い空間を、全体に有機的に接続させることで変化ある構成が空間の豊かさを生んでいます。

【 加藤 則子 】

入選 中太閤山の家

中太閤山の家(外観 トリミング後)中太閤山の家(内観)傾き補正2

所在地
射水市中太閤山
建築面積
90.86m²
延床面積
141.69m²
竣工
平成25年3月31日
建築主
青山 実
設計者
ラミネート・ラボ㈱一級建築士事務所
施工者
一元大工

講評

住まいは生きざま、と言います。まさにこの家は、依頼主の家に対する揺るぎない思想と、価値観を同じくする設計施工者たちとが合致して、対等に向き合ってつくり上げられたという感です。
屋根は杉の割板を葺いていく土居葺き、壁は2年かけてつくった土を竹小舞に埋めていく土壁です。地に還る素材、富山の職人の伝統技、職人達の新しい挑戦と時間をかけた空間は見事。依頼主の丁寧な暮らしも見えてきます。全体に低く抑え、1階2階ともに深い庇を出して人や空間を守り、落ち着いた表情も出しています。10年20年の後に汚れていくのではなく、味わいと朽ちていく美しさを魅せてくれるでしょう。
こども達が集まって遊ぶおおらかな木組みの空間は、夏は涼しくも冬は少々寒いくらい。エネルギーを浪費しない高性能な取り組みを常に問われるこの時代、とはいえどんな時代でも人間の性能である身体感覚を研ぎ澄ますことは健康に生きるという大きな前提。一つの方向だけに突き進むのではなく、身体感覚に基づく古来からの人間の知恵に再び耳を傾ける方向もあって良いのではないでしょうか。
どんな時代でも変わらない本質が何なのかを探り、地球の無駄使いをせず挑戦する建築こそがある意味、高性能であり、美しくも有ると思います。単なる懐古ではない、今の時代に歩み寄るしっかりとした提案を今後もし続けて欲しいものです。それが伝えて行きたい新しい伝統になっていくのでしょう。

 【加藤 則子】

入選 森の中の二世帯の家

森の中の二世帯の家(外観)森の中の二世帯の家(内観)

所在地
小矢部市岩崎
建築面積
173.06m²
延床面積
297.87m²
竣工
平成24年12月20日
建築主
藤田 順一
設計者
㈱洞口
施工者
㈱洞口

講評

「森の中の二世帯の家」は、小矢部市宮島付近の山間の集落にあった両親の家を若い夫婦一家と二世帯で住むために建て替えたものです。敷地の北西側に迫る崖の上には、風情のある旧家があり、そのアプローチと門、倉、大きなケヤキの木がこの住宅の背景となっています。崖側を除く三方は、両親と親しい近隣住民が通る路地に開放的に接しています。
南東側を正面として、中庭を挟んで二世帯が併置され、両者は一階のみがストイックな廊下で行き来できます。東側の両親棟の一階は中庭に面して大きな居間が配され、そこに座れば中庭を通して背後の木が見えます。南東側は、一見、必要以上に壁面で閉鎖されているようにも感じられますが、スリット状に開口やそれぞれの玄関が設けられ、随所に間隙越しの眺めの継起を生み出しながら、オリジナルな正面性を形作っています。その分、北西側は水平窓が遠望の風景を切り取って、くつろぎの場に取り込んでいます。
外壁の色とテクスチャーは背後の旧家と連動し、一体的な風情を醸成しています。平面構成は、二世帯の繋ぎの部分を居間などにしないで、適度の独立性を持ち、中庭を介しての視線もほとんど交わりません。その一方で、中庭との内外部の関係や、アルヴァロ・シザの住宅に見られるような、内部の様々なアルコーブ空間の間接照明と自然採光を用いた陰影と素材の分節など、随所に細かい配慮がなされ、味わいのあるシーンの変化を呈しています。

 【松政 貞治】