令和元年度 第8回建築功労賞受賞者

4つの専門職域から4名が表彰されました。

第8回建築功労賞受賞者

建築大工

城 良則(城建築)

数多くの伝統工法による趣きのある住宅建築に取組み、プレカット工法では出せないバランス美、曲線美、重厚さ、強度を匠の技を駆使した手刻みによる加工と施行技術で造り上げてきた。

これらの経験や知識を次の世代に伝えるため、職業訓練校の指導員や各種講習会講師を長く務めてきている。

左官工

山下 省一(山下左官)

長らく左官職人として数多くの現場で技術を磨き、さらに、現役職人の目線で幾つもの左官道具を独自に考案し、技術の向上や作業の効率化にも貢献してきた。

また、職場の若手職人だけでなく、小矢部市の若手職人に工具を改良し作業の効率化を指導する講習会を開くなど後進の指導を行なっている。

型枠工

豊岡 隆(エムビー建設㈱)

高い知識と技術力を要求される公共事業等の大型物件を多く手がけ、安全管理にも努めこれまで無事故で施工してきている。会社では若手技能者の指導育成にも努めるともに、技能検定の講師として、100名以上の若手の技能向上に尽力した。

防水工

中野 裕一(㈱小島工務店)

防水施工を多数の現場工事で手掛け、技術を磨くと同時に防水関係の資格を多数取得し、後輩の模範となるよう努力している。後進の指導にも熱心に取り組んでおり、講習を通じて後輩5人の1級技能士資格取得につながったことなどのほか、若手技能者の技術向上に尽力した。

令和元年度 第50回富山県建築文化賞建築賞受賞作品

審査総評

今回から審査委員長を務めることになりました。富山県に生まれ育ち、いつか故郷の建築文化に貢献したいと志して東京で建築を学び、建築設計をライフワークとし、現在は金沢の大学で設計教育をしている私にとって、たいへん光栄な役職をいただきました。

最初に審査員としての私の思いを少し述べることにいたします。「どの応募作品の何に価値を見出して選定し、それをどのような講評文で記述するか」ということが建築賞の審査員に課された仕事です。審査員は作品を審査しますが、逆の見方をすれば、同時に応募者や社会から「建築にどのような価値を見出す能力がある人物か」という評価を受けているとも言えます。私は、設計者選定プロポーザル、各種建築賞、アイディアコンペなどの審査員を多数務めてきましたが、いつも「逆に審査されている」という意識で臨んできました。そして審査においては、その作品の何に価値を見出して評価するかを明確に意識しながら選定を行っています。

さて、本建築賞の審査委員会は6名の審査員で構成され、各々に異なるキャリアを通した見識をもとに各作品の評価をしています。建築設計を専門とする者のみによる審査会ではなく、審査員によって異なる多様な価値観を尊重しながら、入選作品を絞り込んでいます。今回の応募作品は、一般部門が4作品、住宅部門が7作品でした。例年よりも応募数が少ない状況であり、特に一般部門の応募が少ないことが目立ちました。一般部門に応募するモチベーションとして、「関係者一同で創り上げた成果を社会から高く評価してほしい」ということが考えられます。その時に、建築物の規模・用途やグレードなどにおいて、県・市・大企業が事業主の建築とはとても競い合えないと判断され、応募を見送られる場合が多いのではないかと推察します。対象範囲を広げた中部建築賞や北陸建築文化賞の一般部門との違いを明確にする意味においても、本建築賞の審査では、建築の大小やグレード感に惑わされることなく、厳しい建築条件やコストの中でも創意工夫により優れた成果を生み出し、富山県の建築文化の向上に刺激を与えている作品を高く評価しようと努めました。

一方、住宅部門においては、設計者と施主との間に夢の住まいを実現しようとする濃密な人間関係がありました。そして、その設計プロセスや成果をお互いに楽しんでいる光景が目に浮かびました。また、住宅部門に応募する常連とも言える数名の設計者が存在し、毎年応募しながら審査員との現地での会話を楽しんでいるようにも見えました。私はこの住宅設計に取り組む設計者のことを、審査員になった最初の年に、槇文彦氏が著した1979年の『新建築』時評「平和な時代の野武士達」の文章を思い出しながら説明しました。この言葉は大組織で「禄を食む」ことなく、自分を貫き力強く生きる建築家像を比喩した表現でした。6年後の今回も、現地で説明された設計者が、施主の夢を実現するために厳しい条件下で格闘し、自分の道を突き進んでおられる様を見て改めて感銘を受けました。

建築設計の仕事には、そのプロセスにおいて様々な苦労があります。また、けっして儲かる仕事ではありません。それでも転職することなく続けられるのは、社会や施主の夢を実現できる感動の瞬間があるからではないでしょうか。また、もう一つの喜びは、自身が行った仕事が社会から評価されることです。苦労を重ねて設計した建築が、社会から褒められる瞬間が最も嬉しい時です。本建築賞の入選もその一つとなり、新たなエネルギーを得て、次の喜びの瞬間に向けて夢を追い続けていかれることを願っています。

【審査委員長 蜂谷 俊雄】

 一般部門

優秀賞 道の駅雨晴

所在地
高岡市太田地内
建築面積
新設部分 421.51m²
延床面積
新設部分 977.39m²
竣工
2018年3月31日
建築主
高岡市
設計
㈱アーキヴィジョン広谷スタジオ ㈱創計画研究所
施工
北栄商会・大栄建設JV

講評

富山湾越しに雄大な立山連峰を眺望できる雨晴海岸は、富山を代表する名所のひとつです。そこに展望デッキのある「道の駅」が完成したと聞けば、多くの人が行ってみたいと思うに違いありません。目の前には富山湾と立山連峰、背面には山があり、道の駅は地形にうまく収まっています。美しい自然景観と一体のここだけの素晴らしい眺望、これには道路の無電柱化が大きく貢献しています。歩道整備や横断歩道の設置など、建築敷地外の周辺環境も一体的にデザインしたことが、場所の価値を飛躍的に高めています。公共事業だからこそ可能なことですが、公共事業だからこそ、かえって組織の壁や予算の制約、前例主義的な組織文化など、困難なことも多くあるなかで、本事業は今後の公共建築のひとつの模範を示してくれたといえます。

建築物としては、眺望を徹底的に意識したことが、平面・立面計画の随所から読み取れ、狭小な敷地に、それを感じさせない豊かな空間が生み出されています。白を基調とし、造形もシンプルですが、単調さは感じられません。西側の大きな曲面が建物全体にやわらかさを与え、地元素材が温かみと親しみを添えています。展望デッキは立体的な構成で印象深く、照明も夜間・昼間を問わずよく考えられています。

雨晴が今まで以上に魅力的で、富山の誇りを感じられる場所となりました。サイクルステーションも整備されているので、自転車を借りて行ってみるのもよいでしょう。

 

住宅部門

優秀賞 里山の家

所在地
富山市土
建築面積
135.46m²
延床面積
97.38m²
竣工
2017年10月20日
建築主
河上 剛之  河上 めぐみ
設計
水野建築研究所
施工
㈱長岡建築

講評

建築は竣工した時点で完成ではなく、使い手が使いながら長い時間を積み重ね、少しずつ味わいを加えていくものです。竣工や工事完了は手続き上のものであり、竣工は完成ではなくスタートなのです。設計や工事は建築のかたちを決めてつくるという極めて重要なプロセスですが、そこで大切なのは、使い始めてから如何にいい時間を積み重ねていけるのか、そのための準備を周到に行うことです。この「里山の家」は、まさにその考えを具現化したような住宅です。住まい手と設計者、施工者が、じっくり話し合い、アイデアを出し合い、じっくりと丁寧に、暮らしのスタートを整えていったことが伝わってきます。

棚田が広がる里山の奥という立地、緩やかな敷地の勾配、敷地から見える景色、住まい手の暮らしのイメージをもとに、スタディーが重ねられ、片流れの曲がり屋となり、北側には里山景観を見渡す大きな連続窓が設けられました。全く奇をてらうことなく、極めてシンプルで素朴な空間ですが、スケール感、細部のディテール、光や視界の取り込み方、スギや漆喰などの自然素材、どれもが緻密に練り上げられています。

まだ住み始められて1~2年ですが、様々な工夫が加えられながら、いきいきと楽しく暮らしている様子が伝わってきます。子供や家族の成長とともに時間を積み重ね、味わいを増していくことに違いありません。5年後、10年後、またそれ以降が楽しみな住宅です。

入選 石籠の家

所在地
射水市中太閤山
建築面積
119.86m²
延床面積
130.74m²
竣工
2017年12月13日
建築主
髙畑 裕一 髙畑 真理
設計
㈲濱田修建築研究所
施工
大野創建

講評

約50年前に整備された射水市太閤山の住宅地にあるこの家。ワイヤーメッシュ製の少し無骨な雰囲気の籠の中に割肌の石が積み込まれた「石籠」と、木目のコントラストが力強い「焼杉板」の壁面が印象的な外観です。

建物の輪郭はシンプルで大胆なのに、テクスチャーに重量感と複雑なデコボコ感があるため、荒々しくもどこか繊細な印象。規則的なようでいてひとつとして同じ形がありません。これらの細部に注目してみると、周囲の自然と共鳴し、懐の深い存在感を放ちはじめます。

この家の住人は、アウトドア好きの若夫婦。家の北側に広がる緑地帯が気に入って、ここに住むことにしたそうです。土地の高低差を活かしたレイアウトのおかげで、LDKの窓から見える景色は、まるで避暑地の森の中。住宅密集地とは思えぬ、みずみずしい開放感が家の中を満たしていました。

靴を脱ぎ、エントランスホールを抜けた先にある、「土間」のような空間も魅力的。薪ストーブが置かれたその場所は、ロビーのように心地よく人を迎える〝最初の間〟でもあり、マウンテンバイクを整備したりスキー板を調整したりする住人の〝趣味の部屋〟でもあるのです。

家の中は、外の自然や光を最大限取り込んで快適な空間に。外は、周囲の自然にとけ込みつつ、その美しさを増幅させる装置のように。その土地にある風景の恩恵を受けるだけでなく、その風景を、時間経過も考慮しながら育てていく意思のようなものを感じました。

平成30年度 第7回建築功労賞受賞者

4つの専門職域から5名が表彰されました。

第7回建築功労賞受賞者

建築大工

根塚 三起生(根塚工務店)

厳格な父のもとで木造建築在来工法を学び、各種資格を取得するとともに、新工法や断熱等各種の新基準も取り入れ、一方で茶室などの数寄屋造りや書院造り、古民家修理等の経験から伝統工法も詳しい。
これらの経験や知識を次の世代に伝えるため、職業訓練校指導員や各種講習会講師を長く務めてきている。

瓦葺工

坪崎 芳松(有限会社坪崎瓦店)

長らく瓦葺職人として数多くの現場で技術を磨き、特に雨仕舞やめの甲工事等では卓越した技能を有している。
また、組合主催の工事コンクール審査員や講習会の講師を務め後進の指導を行なっている。ひとり暮らし世帯の屋根点検事業では積極的に参加し、社会貢献にも寄与してきている。

瓦葺工

福江 俊正(福江瓦工事店)

長らく瓦葺職人として数多くの現場で技術を磨き、特に神社仏閣の雨仕舞や棟がわらの施工で卓越した技能を有している。
また、長い職人人生の中で多くの後輩職人を指導育成してきている

配管工

竹腰 忠宏(昭和工業株式会社)

高い知識と技術力を要求される公共事業等の大型物件を多く手がけ、安全管理にも努めこれまで無事故で施工してきている。会社では若手技術者の指導育成にも携わり、技能講習等を通して8名の配管技能士を育てた。

造園工

砂土居 武義(株式会社砂土居造園)

伝統の和風庭園を基礎に、現代的な庭や外構エクステリアにも精通し数多くの造園に携わってきている。
緑が環境や人体に及ぼす影響や効果に着目し、庭の可能性を大きく広げるとともに、建築と一体としての美観を重視した。
また、職業訓練指導員として後進の指導育成と、特に青年部の育成に尽力してきている。

平成30年度 第49回富山県建築文化賞建築賞受賞作品

審査総評

審査にコストをどう反映させるか、に悩むことがあります。審査の過程では、どれだけ考えつくして具現化しているか、という観点で作品を理解しようとします。作品に呈示された解答が顕在化しているか、です。この手があったか、と手を叩いて納得できる理性的感動を期待しています。過去の経験が新たな感動を求めがちですが、建築物に求められる解答は無数の課題に対して大小さまざまですから、新たな感動が尽きることはありませんし、作品への要求が高くなりすぎることもないと考えます。理性的感動は解答に費やしたコストに関係なく発現されると思われます。作品ごとの異なる解答による感動とコストの関係性を整理して審査に反映するまでには至っていません。

とはいえ、作品に対峙して、これだけの予算を費やしているので、もっと解答を出してほしい、と思うこともあります。逆に、コストが低いのでこれくらいでいいでしょう、という評価はあり得ません。ここら辺りが悩ましいところです。結局のところ、先に書いたように考えつくした痕跡が明確に呈示されている建築物が、コストに関係なく高い評価を得ることになります。

日ごろの研鑽の成果ということでしょうが、どこかで遭遇した場面の組み合わせによる解答が気になりました。全体の統一感をちょっと引いて見渡す時間が必要だと思います。また、地元の材料や技術を利用して欲しいと強く思いますが、現地審査で、解答のおさまりに目を向けたとき、感動にブレーキのかかることがあります。材料や施工にも考え抜いた出来栄えを求めるからです。

一般部門では、建築物の完成度のみならず、将来の社会への貢献ということにも触れました。雇用の創出やまちの活性に寄与できる可能性について評価しました。

住宅部門では、車と雪が避けられない富山の暮らしに一石を投じた住宅、アプローチや室内の光の様子・中庭に開かれた窓・室内空間の心地よい場面をバランスよく構成した住宅、施主の意向に沿った空間を木質材料の個性的な利用により実現した住宅、を評価しました。

富山のこんな職場で働いてみよう、富山のこんな住宅に住みたい、こんな環境の富山で生活しよう、という思いを誘発する建築の役割にも今後ますます注目されることでしょう。

【審査委員長 秦 正徳】

 一般部門

優秀賞 日本カーバイド工業研究開発センター

日本カーバイド

所在地
滑川市大島530
建築面積
新設部分 2,484.82m²
延床面積
新設部分 6,148.13m²
竣工
平成28年10月31日
建築主
日本カーバイド工業(株)
設計
鹿島建設(株)建築設計本部
施工
鹿島建設(株)北陸支店

講評

日本カーバイド工業研究開発センターは、立山連峰から富山湾に注ぐ早月川の扇状地にあり、源流の剣岳と湾を隔てた能登の鉢伏山を結ぶ線に建築軸が重なっています。80年前に豊富な電力を求めて創業された地に、全国に分散していた研究開発部門が集約されました。各部門は分節されつつ軸線上の大きな吹き抜けによって統合され、視線の交感とともに絶えず背後の剱岳が意識できます。両軸端で、会議の場の透明性が山と海の風景を貫入させています。
南西側3層の事務室では、光、音、熱、ITの設備環境が快適な業務を保証し、その天井の形状は光と音に適応しつつ山の端や青海波を想起させ、吹き抜け頂部に達して一体感を呈しています。そこでは自然光は心地よく和らげられていますが、裏方のサッシュが隙間から僅かに見えます。北東側の分析・測定室の機能を集約したメカニカルバルコニーの外観は、もっと特徴的なものとなっていてもよかったのではないでしょうか。東角部の女性休憩室からは見事に剱岳が望めますが、男性陣には羨ましいでしょう。
全体の粗削りのフォルムや色合い、堅固さを抑えた建築的佇まいにカーバイドの素材感が感じられることは、社名が変えられなかったことにも繋がる創業以来のアイデンティティの表現ではないでしょうか。庭園や犬走りに使われている掘削で出たゴロタ石や、仰ぎ見える剱岳の岩肌までもが、山と海を結ぶ琴線状の地霊を感じさせる富山らしい建築です。

優秀賞 宇奈月温泉総湯

所在地
黒部市宇奈月温泉256-11
建築面積
332.36m²
延床面積
1,092.96m²
竣工
平成28年4月8日
建築主
黒部市
設計
(株)ofa  (有)桃李舎  (有)知久設備計画研究所
施工
大高建設・音沢土建JV  吉枝工業・富山管工JV  北陸電気工事(株)新川支店

講評

本施設に最初に関わったのが設計者選定プロポーザルの審査会でした。その要項には温泉地の賑わいの拠点となることを期待する地元の夢が込められ、同時に狭小な敷地が指定されていました。この広さの中で求められるプログラムを如何にコンパクトに集約し魅力を出すかが設計者に課されたテーマでした。その解答として、1階には温泉街に開かれた賑わい空間を配し、建具を開放すれば街に全開し通り抜けできる交流ゾーンを設定し、2~3階には閉鎖的になりがちな浴室機能を配し、木製ボックスが浮いているように見せています。
建築のつくりかたとして、デザインの密度や材料の納まりなどにレベルの高さを感じました。特に構造の鉄骨が全体意匠の構成の中で効果的に表現されています。また、狭小な敷地での落雪を考えれば陸屋根とすることが合理的ですが、屋根に勾配をもたせることで温泉地の景観に馴染ませ、これを技術的に解決する落雪させない屋根断面の工夫もなされています。外観ではスケール感や材質感において好印象をもちました。
ただし、表通りに面する格子サッシュシュ面と内側の木製壁面の二重性がファサード表現のメインテーマになり得るところでしたが、敷地の狭小さのために離隔距離がとれず、その特徴が有効に感じ取れなかったことが残念でした。建築賞を与える作品は設計レベルが高いことが条件になると思いますが、今回の審査では本作品が最も高いレベルにあったと評価します。

住宅部門

優秀賞 Parking garden&House 0

所在地
射水市二口
建築面積
136.79m²
延床面積
118.61m²
竣工
平成28年8月6日
建築主
辻口 智也
設計
根塚建築設計事務所
施工
根塚工務店

講評

本作品の写真や図面を1次審査で拝見した時には、駐車場に大きな屋根をかけて駐車場以外にも使えるという平凡なテーマで、建築のつくり方も「ヤンチャ」な印象に映りました。ただし、この「ヤンチャさ」に気になるものがあり、現地審査の対象になりました。現地審査での設計者の説明は、屋根付き駐車場の楽しみ方や住宅の各部の使い方の面白さでした。
設計者の住宅に夢を託した物語を聞きながら内外観を見渡しているうちに、建築の理想形とは何かという社会の常識的認識とは異なる世界で建築をイメージされていると感じました。設計には百点の解答はなく、建築が建つ時代背景を前提に評価すべきものです。ここには住宅を巧みな納まりや材料使いで美しく見せようという気配はなく、むしろ各場所をどのように形成することで、どのような出来事が生まれ、人々はそれを如何に楽しむかという発想が最優先にあります。例えば、図面を見て思った玄関からいきなり登る幅が広すぎる階段なども、空間体験と設計者の説明でその意図がわかりました。社会の価値観が変化し、その時代に育った若い世代が活躍される時代がきたようです。
社会の価値観を反映した建築界の潮流の変化は二十年単位で過去を振り返るとわかり易いです。建築家が劇的な形態や空間を目指した時代から、人々の活動をテーマとした魅力的な場の形成を模索する時代になっています。本作品を見ながらこのようなことを思いました。

入選 素の住まい

所在地
富山市黒崎
建築面積
53.83m²
延床面積
96.60m²
竣工
平成28年9月1日
建築主
北野 陽一
設計
一級建築士事務所水野行偉建築設計事務所
施工
(有)穴田工務店

講評

ちょっとハッとするカタチ。スリムな家型の箱。迎え入れてくれるような姿と佇まいが印象的です。長手方向に進むと日本庭園を共有しながら、奥には親世帯の住まいがあります。その親世帯側からの眺めとしても、庭の背景としても、広い敷地の中に良い位置を得ました。
ほぼワンルームで設備に至るまで徹底したスケルトン。内部のプロポーションが美しいです。この「素」極まる空間とプランと素材感は、依頼主の希望でもあり、設計者の得意とするテイストです。小さな住まいのスタンダードになるのではないでしょうか。
高い基礎コンクリートの厚みと呼応するかのような、木層壁の重厚な存在が象徴的です。軽快な鉄筋のテンションで、屋根裏からの家型フレームが、スッキリと現しになっています。軽やかさと重厚感との絶妙なバランスが、この空間の思想を作り上げているのだと思います。
どの開口部も、位置や光の角度が緻密に計算されてのリズミカルです。光を様々にそして繊細にコントロールしているのが感じられます。特に9つに仕切られた正方形の大窓には、箱形の庇が付けられていて、意匠的にシンボリックなだけではなく、取り込まれる豊かな光を穏やかにしていました。もちろん窓からの眺めも、緑豊かなところを切り取り、絵となります。
様々な依頼主の要望に、独特なカタチで応えるユニークなチカラ。
潔く飄々とした挑戦を感じました♪

入選 けやき通りの家

所在地
富山市新根塚町
建築面積
97.63m²
延床面積
151.38m²
竣工
平成26年10月24日
建築主
佐々木 英富
設計
深山知子一級建築士事務所・アトリエレトノ
施工
(株)洞口

講評

この家の敷地は、南側と西側の2面が道路に面しており、西側は街路樹の立ち並ぶ“けやき通り”という幹線道路です。
外壁は、ダークブラウンの落ち着いた色調で、街路樹の緑にも調和しており、また、ほぼ正方形に近いプランの2階建てで、深い軒が安定感を与える外観となっています。
エントランスは、南側道路と塀で隔てられ、周辺の喧騒とは別空間のようなコリドー(幅約4尺×長さ約3間の路地状通路)で静かに玄関へと導かれます。
1階のダイニングキッチンは、南側にはプライバシー確保を重視して開口部を設けず、東向きに大きな開口部を設けて採光を確保し、3枚の引戸すべてを側壁内に引込むことにより中庭との一体感が得られるようになっています。この一体感が、より自然を意識し、心が癒されることになります。
塀は米杉の縦張りとし、ダイニングキッチンから中庭を眺めたときに、緑を際立たせる効果をより高めています。
また、2階のヴォイド外周部の床部分に設けた開口部から天井のルーバーを通して射し込んでくる光が程よく調節され、ダイニングキッチンにさまざまな表情を与える計画となっています。
2階の南西角にある和室には、外壁側に開口部を設けず、西日を避け、屋上テラス越しに柔らかい光が入るように配慮されています。
随所に木の仕上げを用い、光が美しいしつらえを演出し、自然との一体感が得られるなど、多くの魅力が感じられる、誰もが住みたいと思う家です。