当会の創立60周年記念事業として、平成23年度から開始しました建築職人の調査については、3年間にわたりホットラインで連載してきましたが、さらに業界の技術の変遷を加え再編集し、A5版220ページの冊子として発刊しました。発行は桂書房です。定価1,500円(税込1,620円)で最寄りの書店で購入できます。是非、手にとってごらん下さい。



富山に資する「何か」を念頭に選考しました。あらためてこの何かを見つめると、富山の建築文化を支える人の成長を支援すること、富山の建築が健やかであること、と捉えているように思います。前者は挑戦した結果が完結しないまでも破たんしていない前向きなバランスを評価すること、後者は富山の建築文化の顔としてお手本となる出来栄えを評価すること、と換言できるように思えます。いずれにおいても、統一感があり美しく心地よい感動がなければならないと思います。選考に際して、実現するための見えない努力をどう評価するかに悩むことがありますが、プロセスの結果が作品の出来栄えとして認識できることが重要だと考えます。
今回の一般部門の応募作品を反芻しますと、応募数が例年と比べて少ないというのではなく、ちょっとさみしい感じを受けました。県内には応募していただける作品がもっと存在しているように思えます。応募へのインセンティブが低いのかもしれません。多大なご苦労を経て実現した建築が、「かくあるべし」への「この手があったか」という解答とならなかったように感じて残念でなりません。模範解答には課題に対するなるほどと頷ける結果と調和が求められると思います。とはいえ、今回も模範解答の一つに巡り合えてうれしく感じました。
他方、住宅部門には意欲的なエネルギーを放つ作品から安定した作品まで幅広く応募していただきました。若い建築家から集大成の域に達したと思われる建築家まで、富山の住宅建築をけん引する作品の応募があったと思われます。なかでも、これからを担う若い建築家の応募がとても喜ばしいです。新たな試みを呈示する作品から住宅の意味をより高めたお手本までが見られたといえましょう。富山県の多様な敷地条件や施主の住まい方への要望の高いことを反映しているように思われます。
審査の過程は、部門ごとに一次審査、二次審査と進めました。一般の部の応募数は7件、住宅の部の応募数は13件でした。一次審査では応募図書を閲覧したのち、現地調査の候補作品を選定しました。一般の部は4件、住宅の部は6件を現地調査の候補としました。現地調査では、応募図書では見られない環境との調和・出来栄えを現地にて調査しました。現地調査に次ぐ二次審査では、冒頭に書きました趣旨を踏まえて現地調査結果を参照して、一般の部2件(優秀賞1件、入選1件)住宅の部5件(優秀賞1件、入選4件)を選定しました。
【審査委員長 秦 正徳】


全国公開の設計者選定プロポーザルで大手事務所や著名建築家と競って選ばれた地元事務所の作品です。限られた時間でその優れた成果を分析し尽くせたとは思いませんが、現地審査中に直感したことを記述します。
最初にゲートを潜って中庭に入ることで学校の全体像が把握でき、次に大階段を登り、常に学校の一体感を感じながら上階の各教室へと生徒を導く巧みな動線計画です。大らかに伸びるエントランスゲートは低く抑えられ、威圧感なく生徒を中庭(広場)に迎え入れながらゲート内外の視覚的連続性を保っています。また、広場の特性を分析する時にD/H(depth/height)の数値で説明する場合(シエナのカンポ広場等)がありますが、周囲の建築高さが変化していることで、D/Hが見る方向で違って見える面白さを体験することができました。さらに、教室群が上下・左右に連続する場合、外観意匠が単調になりがちですが、各階廊下に配されたガラスの小スペースにより立面全体にランダム性が付加され、単調さが回避されています。
全体の印象として、大胆な技を連発して注目を集めようという気負ったところがなく、長年の事務所の蓄積を真面目に自然体で表現することから生まれた落ち着きが感じられました。一方で、バランス良く配置されたアクセント的表現や材料の使い方には既視感があり、独創性を見出すことはできませんでした。
【 蜂谷 俊雄 】


南砺市立上平小学校は世界遺産五箇山を包む同じ山並みの中にあります。二つの小学校の統合を機に住民代表が要望書を作成し、基本設計段階の検討委員会で協議が重ねられました。合掌造りを類推させる木材の積極的な使用が当初から検討され、体育館の木造化が意図されましたが、途中、3階建てとなったことで「木質化」された耐火建築物になりました。
校舎本体も豪雪に対する維持管理の問題から、鉄筋コンクリート構造が採用されました。当初はその構造の外枠に木造の箱が収まる入れ子構造が計画されましたが、種々の制約から木造部分はさらに縮減され、主体構造の内部仕上げにふんだんに地産木材が使われる形になりました。木軸フレームや吹き抜け部分下の格子天井、置床下地の圧縮フローリングは一体になって、表面的な仕上げや装飾のレベルを超え、子供たちが地元の木材の豊かな教育空間の中で育つことができます。豪雪対策が最優先され体育館も校舎も「木造化」は実現されませんでしたが、安全で快適な通学と学習が可能となるように、単純な平面形態と屋根や軒の断面が決定されています。
雪割付き屋根を頂く合掌造りを想起させる3つのトップライトは、体育館の大屋根に付き従って周囲の山並みと連動するアクセントになっています。内部の魅力は写真や図面どおりでしたが、写真だけでは必ずしも周辺環境に調和しているようには思えなかった外部の色彩は、実際には風景に十二分に馴染んでいました。
【松政 貞治 】


街中の住宅地にあるこの家のアプローチは、街並みに配慮した植栽、前面板壁のヒノキの柔らかい色合い、玄関ドアへの軽やかな庇、ドア前の足元に壁面の裾から透過する中庭の光と風、これらをバランスよく構築したオープンスペースとなっています。家族はもとよりこの家を訪れる人を暖かく迎え、通りがかる人に好感を与え、街並みの品を高めています。
南向きのドアを入ると中庭の光が差し込む明るい玄関となっています。壁を隔てて右へと続くリビングコーナーには中庭から南の光が開口部全面に広がっています。さらに進むとダイニングコーナー、キッチンコーナーへと続き、ここへは西からの光が差し込むことになります。そこには子供たちの勉強コーナーもあります。奥には寝室が配置されています。リビング・キッチン+・寝室がコの字に配置されたコートハウスとなっているのです。隣家とのプライバシーを保ちつつ陽光の入る構成です。連続したコーナーでの思い思いの家族の様子を互いに感じあえ、絆が高まることでしょう。
トイレと風呂と2階へ繋がるコーナーの奥には明り取りの窓があります。ここから階段のクランクを経て上がると、バルコニーのある明るい子供たちの部屋と屋根ウラを活用した隠れ屋的な主人の書斎へと続きます。2階の室内環境を一台のエアコンで整えるという合理性にも驚きです。光と穏やかな影に包まれた、長く住むことで愛着が醸成される心地よい家となっています。
【秦 正徳 】


住宅部門の審査においては、施主要望、敷地条件、総予算などが個々に異なり、建築設計の教科書的一般論では語れない難しさがあります。そこで、施主の夢を実現するプロセスで発揮された提案力・技術力・独創性・執念などに着目して作品評を書いてみました。
2台分の車庫を前提とした住宅の外観には一般的に違和感がありますが、本作品では車庫を分けてスケールダウンを図りながら、道路と住居の緩衝帯に位置する土間空間として扱うことで半屋外的利用が可能なスペースを生み出しています。各所に配された半屋外空間を空間構成全体との関係で見ますと、外土間・内土間・坪庭・テラス等が、外から内へと段階的に空間の質を転換させる要素として、有効に配置されています。
また、外土間→坪庭→渡り廊下→テラス→外庭を見通して見せるトンネル効果の魅力も感じられます。さらに、木材と金属の対比的素材の魅力を引き出すために、各素材を明快かつ独立的に構成することで、見る角度ごとに材質・色彩のコントラストが強調された演出として感じ取れます。この対比的な材料使いは面的表現と線的表現のコントラストにも表れています。一方で、和室と玄関収納の間を仕切る杉板本実型枠のコンクリート打放壁は、部分的に挿入された特異な材質感の魅力はありますが、むしろ自立する象徴的要素として特化した表現にすべきではないかと思いました。
【 蜂谷 俊雄 】


この家の主人はドラムをたたく…その住まうカタチが、「やぐら」のある箱です。1階のほぼ中心の「やぐら」を、防音の音楽スタジオにするというプランです。「やぐら」内のドラム音は、周囲の生活空間には微かしか聞こえず、その機能とプランがぴったり一致したカタチと言えます。しかも特殊な防音装置ではなく、コンクリートブロックで「やぐら」を囲ったことが、コストダウンをかなえつつ、全体のカジュアルな仕上げにも通じています。 外観は、外壁面より基礎を奥まらせて浮遊感を出し、さらに、四隅に柱の無い「パノラマ窓」と併せて、重くなりがちな箱を軽快に見せています。この細く巡る「パノラマ窓」は、内部から見るとかなり明るく、一日の様々な陽を感じさせる日時計のよう。コンパクトで仕切りの無い空間だからこそ感じられる、遊び心ある演出です。
家全体を緩く繋げている回廊型の生活空間や、木質と色使いの絶妙なバランスは、気どらない居心地の良さを感じさせました。今後、「パノラマ窓」を意識した外観を全体的に整えて、広い外構もどのように計画されて行くのか、個性的な挑戦に期待します。
【 加藤 則子 】
「天空を愉しむ家」は、砺波市太田の集落内にあり、北は、交通量が多く道幅の狭い国道、東西は、集落道路と通路、南は、お隣の住宅が接近した環境にあります。配置は、南側に建物を寄せ、北側の国道から玄関までゆったりした空間を取っています。建物は、平屋建てで、屋根を2寸勾配とし高さを抑え、周囲に樹木を配し、周辺環境にも気を配っていることを感じます。
外観は、ダークブラウンの板張りを基調とし、正面は、平屋で低く水平に伸びた軒の上部に青空が大きく輝き、その下に白木の格子戸と既設の車庫に繋がる雁木の深い軒下の杉板張りの押縁、GL鋼板立平葺きの壁面、窓の縦線が調和しています。格子戸の玄関を入ると土間の先に中庭が繋がり、左に玄関、右にサロンの入口があります。中庭は、5m四方程度で軒が低く、リビングからは、軒で切り取られた空が見え、青空と雲の動き、変化を愉しむことができます。
夜空も星や月がきれいに見えることでしょう。玄関脇の4畳半には、仏壇と床の間が、リビングには、神棚があり、建替え前の住宅の面影が継承されています。リビングの東側は高さが1.5mの掃き出し窓で、通路との境には生垣を設けて、プライバシーを確保しながらも、足元に光を受け、風も中庭とその先の和室に抜ける心地よい環境となっています。「プライバシーを確保しながらも解放感あふれる家づくりを目指した。」との設計者コメントどおりの住宅です。富山らしい伝統と暮らしを残しつつも、現代的で快適な住まいを提案したモデル住宅と言えるのではないかと思います。
【 土肥 義一 】


「中川上町の家」は高岡市古城公園南側に古くからある住宅地に建てられています。周辺の街並みの中でひときわ映えるファサードには、旧宅の南西側一角とその背後の土地を合わせた極めて細長い敷地の特殊性がうまく意識化されています。金屋町や吉久のように間口の狭い町家がファサードを前面で連続させる歴史的な街並みで、駐車場を表に設けて全体をセットバックすると、連続性は大きく損傷されます。しかし、高岡市の市街地に多く見られるような、木造住居がランダムに隣接する敷地環境の中で、この住宅は周囲に良い刺戟を与えています。
ファサード上部の均整のとれた窓割は内部のリビングの吹き抜けを表出し、夜には天井の化粧垂木を道行く人に垣間見させます。雨水の流れ方を考えてのことだと思いますが、水平になっていない玄関庇の屋根の線が少し気になりました。
一階は玄関から収納や応接間、浴室、トイレを心地よいリズムの廊下が結んでいます。奥の階段を上がると中央手前からキッチンがダイニングとリビングの吹き抜け空間を支配しています。北東側は室外機置場を取りつつプライバシーを確保するためか主寝室と子供部屋が半階分上げられています。ロフトと呼応して断面には変化はできましたが、化粧垂木の続く天井を介しての一体感が少し弱められたように思います。それでも、敷地幅を体感できる柔和な空間は、大きな魅力となっています。
【 松政 貞治 】

建築大工
伝統工法を生かし、雪国の地域に適合した数多くの店舗、住宅等を施工し、木材は国産材・県産材を主力に使用するとともに、常に品質確保に重点をおいた地域の住まい造りに貢献している。
また、多年に亘り魚津建築高等職業訓練校の指導員として概論・構造・力学などを熱心に訓練生指導にあたり、その後、同校校長や同校会長を務め、学校運営全般に多大な尽力をしてきている。

建築大工
八尾町内工務店でつくる「八匠」の一員として八尾町の歴史的個性を生かし、「八尾のイメージをつくる町並み」を目指し、伝統工法による木造の家造りを推進している。
また、これまで12人の弟子を育成し、何人もの弟子を独り立ちさせるとともに建築組合の役員として、大工の職人意識向上や後継者育成事業に力を注ぎ、技能研修会、講習会等を開催し後進の指導を行ってきた。

瓦葺工
瓦工事暦40年の中で技術を磨き、特に入母屋の隅棟の反りのつけ方及び隣棟との取合いの納め等が独特の技術として皆の範となっている。
平成19年~22年には組合主催の技能講習の講師として、平成23からは技能検定の検定員として、永年築いた技術の基礎等を指導に活かす等、瓦工事技能の向上に努めている。

建築板金工
常に技能の研鑽に励み、伝統技能を継承しつつ新技術にも挑戦し、一般住宅から大型物件あるいは神社仏閣まで多くの物件を手掛けてきている。
創業以来、多くの従業員を富山県職業訓練校に入校させ、技能・技術の向上に努め、また技能講習の講師として伝統技術の伝承に積極的に参加協力し、特に青年部及び後継者の育成と板金業界の発展に努めてきている。

石工
取付け工事における信念は常に外れない工法の選択による安全性の追求であり、立山カルデラ砂防博物館や高岡御車山会館等多くの大型公共建物を手掛けてきた。
後継者育成の面では、技能検定試験の事前講習の講師を何度も務めるとともに、元請業者に対し元々の左官業で培った技術向上も含めた改善・提案を行い、同業者や現場施工図担当者等の技術向上に繋がっている。

鉄筋工
これまで、高岡急患医療センターや砺波東部小学校など大型工事を多く手掛け、それぞれ工期短縮や高層階・長大建物での作業の効率化等困難な課題を克服して、無事完成させてきている。
また、技能検定講習の指導員として多くの合格者を誕生させ、平成21年に職業訓練指導員として、平成26年から技能検定委員として、後進の指導に力を注いでいる。

配管工
管工事業に34年余り従事し、これまで多くの公共工事に携わり、現場施工の高い技術力は勿論のこと、正確で着実な責任感のある現場管理に努め、信頼を得てきている。
また、部下に1級配管技能士、2級管工事施工管理技士、給水装置工事主任技術者、配水管技能士等の資格を取得させ、多くの能力の高い配管技能者を育てた。

電工
若い頃より電工として多くの経験を積み、その後、現場代理人・監理技術者として著名な建築家設計の富山国際会議場やさらに海上60mの高所での作業を伴う新湊大橋等の難しい工事を無事完成させた。
後継者育成面では、工事管理や実際の現場作業を通して、あるいは工事部長として経験を活かした社内技術講習会を開催し後進の技術レベルの向上に努めている。

建築大工
多年に亘り、砺波職業訓練校の指導員として後進の育成に尽力するとともに、伝統的在来工法で数多くの寺社、住宅等を施工してきた。
また、常に研鑽に励み在来工法による住宅では、県産・国産木材を主に使用し、建築資材は常に品質確保に重点をおき丈夫で長持ちする住宅を数多く施行してきている。

建築大工
多年に亘り、技能伝承のため弟子育成に尽力し、数多くの内弟子を育ててきた。
また、伝統的工法を現代的に生かし、数多くの神社・仏閣・一般住宅等を雪国の地域性を考慮した工法にて施行している。

瓦葺工
多年に亘り、地場産瓦(4・9版)による神社・仏閣を多く手掛け、長年の苦労により独自の技術(4・9番版みのこ・3枚みのこ)を磨き、独特の威圧感・荘厳感・伝統美を醸し出している。
また、少なくなった4・9版の瓦葺き技術を伝承するため後進の指導にもあたるとともに、技能検定の審査員として技術向上に尽力している。

建築板金工
多年に亘り、一般住宅から大規模建築物まで数多くの物件を手がけ、常に高い技能の研鑽に励み、伝統技能の継承をしつつ新技術も取り入れ、地域社会から高い評価と信頼を得て、業界の地位向上に大きく貢献してきた。
また、長い間、砺波板金高等職業訓練校の理事や板金工業組合の教育指導委員長として後進の指導に尽力している。

配管工
多年に亘り、主に公共建築物に配管工として数多くの現場を担当し、豊富な知識と迅速な仕事により多くの実績を積んできている。
また、現場で培った技能を元に後進の育成に努め、一級管工事施工管理技士1名、二級管工事施工管理技士1名、一級配管技能士4名を育てた。
富山県の建築文化に資することを念頭に審査を進めました。建築文化の解釈は委員それぞれ異なると思われますが、昨年も指摘しました富山県に良い影響を与える「何か」がしっかり具現化されていることを、委員相互の意見交換により確認し合いながら審査を進めました。
この「何か」は、富山県の日常に潜在する有形無形の資源を、緻密な計画、技術の伝承と革新により開花させるところに見いだされると思われます。具体的には、富山の宝となりうる建築物のコンバージョン、伝統の技をさらなる次元へと誘導、過去の記憶を定着、施主の意向の形象、快適な生活環境などを考え抜かれた痕跡として理解でき、全体の統一感が出来栄えとして完結しているところを評価しました。
今回の応募作品数は、一般の部9件、住宅の部15件でした。昨年の応募数がそれぞれ、3件、9件でしたので、総数で見ると応募作品数は倍増ということになります。
審査は部門毎に、一次審査、二次審査と進め、一次審査では、応募書類(図面、写真、作品の説明)を閲覧した後に、審査員の合議により現地調査の候補作品を選定しました。可能な限りの作品を現地調査する方針とし、一般の部5件、住宅の部8件を選定しました。応募書類では見られない環境との調和・出来栄えについて現地に赴き調査しました。審査に協力していただいた諸氏には感謝いたします。
現地調査に次ぐ二次審査では、冒頭に書きました趣旨を踏まえて現地調査結果を元に表彰作品として、一般の部3件(優秀賞1件、入選2件)住宅の部5件(優秀賞3件、入選2件)を選定しました。
【審査委員長 秦 正德】


富山の清水を活用した地場産業である酒造りの仕込みを行っていた工場を、蔵のイメージを損なうことなく、切り妻の大屋根を有する研修所として蘇らせました。表通りに面する妻面の漆喰大壁により蔵の景観を現し、他方の妻面は近代的な和風のファサードを構築しています。このアプローチが建物の入り口となっており、夕闇に漏れる光が美しい。
いずれの桁行き方向の壁面も控えめな漆喰と特徴ある開口で仕上げた蔵をイメージさせ、この地の酒造りの記憶を保持しています。おそらく既存の木構造では耐震性能が不足していたと思われ、構造的にも興味ある改修をしています。主要な構造は、2重の屋根の登り梁をトラスに組み、両側の柱にバットレスを加えて山形の不静定ラーメンを構成し、これにより架構の剛性と強度を確保しています。バットレスのないファサードを構成している屏風のような壁面も張間方向の耐震性能に寄与しているとも思われます。この部分をさらに強化してステージの中央に位置する棟持ち柱を取り去さることも検討されたのでしょう。
細部にわたって詳細に検討された痕跡が感じられました。初期の構造である太い棟持ち柱を列として内装に残すことで蔵の空間を彷彿とさせる意図は成功しており、最盛期の仕込みをする職人の声が響き渡るような空間となっています。
【 秦 正德 】


富山駅西方向、神通五差路近く、ケヤキ並木の残るさくら通りに面して建つ鉄筋コンクリート造4階建て、県立の定時制・通信制の単位制高校と生涯学習カレッジが併設された複合用途施設です。キャンパスは開放的であり、そこを訪れる人々の記憶を穏やかに支えています。建物のファサードを前面の歩道に沿って違和感なく構成しているだけでなく、敷地内にあった近隣住民が行き来していた小学校への細い道の記憶をとどめるために、キャンパス内に通りを設けています。さくら通りから歩道と一体になったアルコーブは、グラウンドまで見通せる明るく開放的で通り抜け可能な中庭へとつながり、周辺住民が犬を連れての散歩道になっています。
2~3階正面に設けられた、立山連峰の稜線の高低差をその間隔で表現したという縦ルーバーは、見る位置により建物の印象が変わるファサードとなっており、町並みに変化をもたらしているほか、内部空間については、内装としての木材の使い方も控えめで、近年の木質化にみられる野暮ったさがないのも好感が持てます。また、オープンカウンター形式で開放的な職員室等、施設全体が温かみの感じられるものになっています。
【秦 正德 】


本施設は、旧福光市街から北東方向に伸びる県道砺波福光線に面する鉄筋コンクリート造3階建て2棟、44戸からなる南砺市の市営住宅団地で、瓦仕上げの勾配屋根や色分けされた外装の色彩等、周辺への威圧感を低減し、田園景観との調和に配慮した施設となっています。
南北に長い不整形な敷地の中に、建物軸線を敷地境界線に合わせて東西に並列配置された住棟と、敷地中央に整備された馬蹄形の庇をもつ集会所を配置し、それらを結びつける1階が通り抜けられるブリッジや雁木通路により、施設全体に回遊性を持たせるとともに、柔らかく囲い込まれた中庭空間を創り出しています。
¥中庭に立つと、建物外周に設けられた共用廊下とサンルーム・ベランダの陸屋根部分により、瓦の勾配屋根が視界から消え、遠景として見た時の田園景観と調和させた外観とはうって変わって、明るい都市広場的な雰囲気を醸し出しています。
10戸あるシルバーハウジング住戸だけでなくすべての住戸のサンルームをバリアフリー化しており、玄関前のアルコーブや住戸内に廊下を作らない効率的な平面計画、床から天井までの高さを持つ間仕切り建具等多様な生活スタイルに対応できる提案がなされていました。
【 篠島 弘男 】


「木津の家」は、高岡駅の西側の木津地区にある閑静な住宅地に位置します。北東側に前面道路がある南西向きの敷地で、RC造の両親の家の北西側に隣接して若い夫婦一家のために別棟として建てられました。二世帯が適度の距離感と一体感の両方を享受できるように設計されています。玄関も庇や構造体の表出部も、両親の家側に志向的に関係付けられ、施主が幼い頃から慣れ親しんだRC造の感触が、型枠の木目によって和らげられた上で、内部にも及んでいます。
両親の家の側壁との間隙には中庭が配され、一階のリビング、ダイニング、二階の二つの洋室は、愛着のある大きな庭に向けて30度振られて、両親の家との互いの視線の交錯を避けつつ、庭に南面するよう工夫されています。内部は、木の床や天井とRC造とが適度に馴染み、30度に振られた角度が天井のレベルの変化にも連動されています。またその鋭角を利用した階段を上がるとともに、踊り場や二階の隅部に設けられた湾曲は、床や天井の木部の湾曲と一体になり、さらには天井の変化や間接照明の効果も重なり、アルヴァー・アアルトを思わせる、主寝室への感動的なパースペクティブを構成しています。
車庫の扱いなどの気候風土への関わり、両親の家との、機能と表現の両面での巧みな関連付け、両棟を連動させての街並への参加、内部空間の完成度など、どの点においても、施主の好みや感性、設計者や施工者の熟練味が現れています。
【 松政 貞治 】


数寄屋のようにも感じた大壁造りの新しい和の空間を有する住宅です。階段の踏み板のアールをはじめ建具、天井なども細部にわたって詳細に考え抜いて、大工による仕事で構築しています。富山固有の大工の優れた技術を将来へと伝承し改革を牽引するディテールのようです。
直線と直角で構成される木造軸組構造を手がけてきた大工にとって、吹き抜けの空間を覆う雲のような曲線の繋がる天井を仕上げるのは苦心の作であったと思われます。全開する開放的な木製窓には網戸も取り付けられています。押し入れのような狭い寝ころべる書斎空間は主人が楽しむための面白い仕掛けです。雑木を植栽した四季の変化を楽しめる庭に建物から突き出た木製デッキは、とりわけ初夏には心地よいコミュニケーションの場となることでしょう。
子育てを終えた夫婦の「終の住み処」として、施主の要望に応えていると思われますが、施主のイメージをそのまま具体化するのではなく、設計者がそれ以上の仕掛けを呈示し、多様な要素が統一感を持って構成されているところに注目するとともに、大工技術の可能性の広がりを示唆しています。
【 秦 正德 】


研がれたナイフで気持ちよく切り込まれたカタチです。住宅地の長年の空き地に建てることへの細やかな配慮が、全体のプロポーションの美しさに現れています。
裏面が隣家にとっては表側に面するのはよくあること、だからこそお互いに良い借景を提供し美しい背景と成り得たいものです。明るいグレーのガルバリウム外壁は無機的になりがちですが、面の構成と窓から漏れる灯りと相まって、正面だけではなく裏面も威圧感なく優しく整えられていました。
冬の雪と夏の日射しを避けたい富山の家の駐車場。これも無機的になりがちな現実にしっかり眼を向け、住まい部分と中庭にうまく繋がらせています。また、そこから暮らしの気配がさりげなく通りに漏れてくる景にもほっとします。
内部は、落ち着きある色調で統一された板張りの床や壁面、木製の家具や建具の主張しすぎない存在感、建具の納まりなどの完成度が高く、眼に邪魔になるものが在りません。また、依頼主の家事の習慣やこだわりに丁寧に答えている姿に、設計者のまじめさと優しさと繊細なセンスを感じました。
「外居間」と言う中庭と居間とを誘い合うような角度で繋がらせた境界は絶妙。母娘が気軽に行き来して外の空気を楽しんでおられ、また依頼主夫婦の趣味であるダーツのための細長い空間を、全体に有機的に接続させることで変化ある構成が空間の豊かさを生んでいます。
【 加藤 則子 】


住まいは生きざま、と言います。まさにこの家は、依頼主の家に対する揺るぎない思想と、価値観を同じくする設計施工者たちとが合致して、対等に向き合ってつくり上げられたという感です。
屋根は杉の割板を葺いていく土居葺き、壁は2年かけてつくった土を竹小舞に埋めていく土壁です。地に還る素材、富山の職人の伝統技、職人達の新しい挑戦と時間をかけた空間は見事。依頼主の丁寧な暮らしも見えてきます。全体に低く抑え、1階2階ともに深い庇を出して人や空間を守り、落ち着いた表情も出しています。10年20年の後に汚れていくのではなく、味わいと朽ちていく美しさを魅せてくれるでしょう。
こども達が集まって遊ぶおおらかな木組みの空間は、夏は涼しくも冬は少々寒いくらい。エネルギーを浪費しない高性能な取り組みを常に問われるこの時代、とはいえどんな時代でも人間の性能である身体感覚を研ぎ澄ますことは健康に生きるという大きな前提。一つの方向だけに突き進むのではなく、身体感覚に基づく古来からの人間の知恵に再び耳を傾ける方向もあって良いのではないでしょうか。
どんな時代でも変わらない本質が何なのかを探り、地球の無駄使いをせず挑戦する建築こそがある意味、高性能であり、美しくも有ると思います。単なる懐古ではない、今の時代に歩み寄るしっかりとした提案を今後もし続けて欲しいものです。それが伝えて行きたい新しい伝統になっていくのでしょう。
【加藤 則子】


「森の中の二世帯の家」は、小矢部市宮島付近の山間の集落にあった両親の家を若い夫婦一家と二世帯で住むために建て替えたものです。敷地の北西側に迫る崖の上には、風情のある旧家があり、そのアプローチと門、倉、大きなケヤキの木がこの住宅の背景となっています。崖側を除く三方は、両親と親しい近隣住民が通る路地に開放的に接しています。
南東側を正面として、中庭を挟んで二世帯が併置され、両者は一階のみがストイックな廊下で行き来できます。東側の両親棟の一階は中庭に面して大きな居間が配され、そこに座れば中庭を通して背後の木が見えます。南東側は、一見、必要以上に壁面で閉鎖されているようにも感じられますが、スリット状に開口やそれぞれの玄関が設けられ、随所に間隙越しの眺めの継起を生み出しながら、オリジナルな正面性を形作っています。その分、北西側は水平窓が遠望の風景を切り取って、くつろぎの場に取り込んでいます。
外壁の色とテクスチャーは背後の旧家と連動し、一体的な風情を醸成しています。平面構成は、二世帯の繋ぎの部分を居間などにしないで、適度の独立性を持ち、中庭を介しての視線もほとんど交わりません。その一方で、中庭との内外部の関係や、アルヴァロ・シザの住宅に見られるような、内部の様々なアルコーブ空間の間接照明と自然採光を用いた陰影と素材の分節など、随所に細かい配慮がなされ、味わいのあるシーンの変化を呈しています。
【松政 貞治】




























