令和2年度 第9回建築功労賞受賞者

2つの専門職域から2名が表彰されました。

第9回建築功労賞受賞者

建築大工

上山 吉信(上山工務店)

伝統的在来工法で数多くの枠の内工法・あずま建工法・入母屋造り工法により、国産材・県産材を主に使用した丈夫で長持ちする木造住宅を施工している。

後継者育成の面では、伝統的在来工法を中心に若手大工の指導・育成に努めてきている。

防水工

藤森 修二(北陸防水)

公共工事を始めとして、防水施工を多数の現場工事で手掛け、防水関係の資格を多数取得して、現場責任者として活躍している。

後進の指導にも熱心に取り組んでおり、講習を通じて後輩3人の1級技能士資格取得につながったことなどのほか、若手技能者の技術向上に尽力した。

令和2年度 第51回富山県建築文化賞建築賞受賞作品

審査総評

今年は新型コロナウィルス感染対策に世界中が悩まされた年でした。本建築賞においても、応募数が激減するのではないかと懸念しましたが、昨年の倍の応募数がありました。

本建築賞の審査委員会は6名の審査員で構成され、各々に異なるキャリアで培った見識をもとに作品を評価し、推薦する作品の何に価値を見出したかについて意見交換を行いながら審査を進めました。1次審査は応募書類で行い、一般の部は10作品中4作品、住宅の部は13作品中5作品が現地審査の対象に選ばれました。現地審査は2日をかけて9作品を見て回り、事業主や設計者との質疑応答を行いました。最終審査会では9作品について意見交換を行った後に、6名の審査員が各々5作品を推薦しました。この時点で5名以上が推薦した4作品を入賞に決定しました。その他の作品については、審査員の半数以上が入賞に値すると認めた作品がなく、入賞作品は4作品になりました。次に4作品の中から優秀賞を2作品、入選を2作品選びました。入賞作品数については、今年は前年の2倍の応募数があったことから、5~6作品に増やすことも考えましたが、本建築賞の価値を維持するために、応募総数に応じた相対評価ではなく、過去の入賞作品と同等以上であることを確認する絶対評価とすることにしました。

一般建築部門では、公共の大規模施設ではなく、民間の小空間が高い評価を得たことが特筆できます。一つはコンテナを使用した飲食横丁であり、もう一つは浄土真宗寺院の納骨ロッカーでした。両作品に共通することは、建築的テーマに対し、事業主と設計者が既成の発想にとらわれることなく思考を巡らせ、設計者のデザイン能力が十分に引き出されていたことです。小・中学校や研究所等の大規模作品の応募もありましたが、審査員には類似施設の既成の発想のバリエーションの違いとして映りました。大規模建築の設計プロセスにおいては、多数の人々の合意を得るために社会性・合理性が重視され、前例主義になりがちです。前衛的な試みがない場合においても、富山県の建築文化の向上という視点において、同種の他の建築を上回る工夫がなされているかを審査しました。一方、住宅部門では、施主と設計者が意気投合すれば、社会性・合理性を超えた住居のつくり方があり得ます。その意味において大規模建築よりも自由度があり、独創的な作品が生まれる可能性があります。しかし優秀賞の2つの住宅は独創的あるいは前衛的な作品ではありません。「愛宕町の家」は日本古来のアプローチ空間の演出手法を用い、「インナーパティオのある家」も日本古来の土間空間を採り入れたものでした。共に時間軸の中で培われた魅力ある住居形式を現代の生活に採り入れた「歴史と現代の接点に建つ家」ということができると思います。

【審査委員長 蜂谷 俊雄】

 一般部門

入選 あまよっと横丁

所在地
富山市総曲輪3-12-2地内
建築面積
150.52m²
延床面積
145.18m²
竣工
2018年9月25日
建築主
㈱アトム
設計
㈲濱田修建築研究所
施工
大野創建

講評

富山市中心市街地のアイコン的空間でもあるグランドプラザから、総曲輪通り商店街をはさんで目と鼻の先、ヒューマンスケールの街路の一角に「あまよっと横丁」があります。ひとつの敷地に、小さくも独立した飲食店が並び、そこに新たな路地、まさに「横丁」が形成されています。各店舗はコンテナを改造したシンプルな造りですが、元の敷地に絶妙なバランスで収まり、店舗と路地のスケール感がうまく調和しています。コンテナを店舗に使用すること自体は、最近では特に目新しいとも言えませんので、必ずしもコンテナであること自体を評価したのではなく、むしろそれらが中心市街地に生み出した「横丁」としての空間や、ある種のおもしろさ、そして各コンテナに施された丁寧なディテールを評価しました。地上に並ぶ7つの店舗、それにトイレや事務所に使われているコンテナは、いずれも新品を改造したもので、かつ、剥き出しのコンテナではなく、主要面をガラス張りにした上品な仕上がりになっています。塗色も落ち着いた色調で、照明もよく考えられています。2階に積まれた3台のコンテナには室外機が収められていますが、ここにはあえて多少のへこみのある中古のコンテナが用いられ、まるで以前からあったような風合いを醸し出しています。細部にまで気を遣った丁寧な作り込みは、一時的な簡易店舗としてのコンテナ利用ではなく、中長期を見据えて街に賑わいを生み出そうとする新たな個性ともいえるでしょう。

入選 郷の納骨ロッカー

所在地
魚津市持光寺定籍
建築面積
改修対象部分 40m²
延床面積
改修対象部分 40m²
竣工
2018年7月30日
建築主
慈興院大徳寺
設計
一級建築士事務所㈱本瀬齋田建築設計事務所
施工
㈱宝来社

講評

既存の建物である「特賜殿」の一角を改修してつくられた慰霊の場所。最も印象的なのは、高さの異なる8列の角材で表現されたスダレ。寺社の庇に見える垂木を想起させます。その下にシンプルなロッカー型の納骨棚があります。由緒ある建物をできる限り活かすよう、新たな建具や什器がよく練られたデザインと丁寧な手仕事で加えられ、美しく整えられた内装。ごく小さな空間ながら懐深い世界観を体感できます。

足を踏み入れたとき、心地よい緊張感が漂っているのを感じました。荘厳さというよりは「親しみやすい神聖さ」とでも言いましょうか。室内を包むやさしい光と香りが徐々に体に浸透し心を癒してくれるようで、身を置いていると、じわじわとこの場所に愛着がわき、満たされた気持ちになってきます。細長いつくりが縁側的でもあり、気軽にふらっと立ち寄り長居したくなる空間です。

少子高齢化やライフスタイルの変化で、人々の墓離れ・寺離れは加速しています。真宗王国と言われる富山でも、仏間のない家や墓仕舞いをする人も増えているようです。この空間を改めて見てみると、長きに渡り地域のコミュニティ醸成の場であった寺の機能を再定義する試みであると同時に、各家で守っていた仏間や墓の機能をコミュニティの中に拡張し、死者を通じてもたらされる様々な「ご縁」を、互いに共有し増幅する試みでもあると感じます。

地域・コミュニティの在り方のみならず家族の在り方や一人ひとりの生き方を穏やかに問い、「ご縁」によってサステイナブルな未来をつくる場なのだと思います。

 

住宅部門

優秀賞 インナーパティオのある家

所在地
富山市有沢
建築面積
172.39m²
延床面積
193.19m²
竣工
2019年3月26日
建築主
小林 恵  小林 真樹子
設計
荒井好一郎建築設計室一級建築士事務所
施工
<分離発注工事>

講評

家の外観は、屋根を前面に低く葺き下ろして圧迫感を抑えた、落ち着いた印象です。

来客は、大割の鉄平石と山採りの植栽で自然を感じられるアプローチを抜けて玄関ポーチに進みますが、この家には靴を脱ぐ玄関がありません。大きな軒下空間のポーチ土間をくぐり、土足のまま通り土間を抜けると、インナーパティオと名付けられた中土間にたどり着きます。そこで、古民家や町家で靴を脱いで小上がりに上がるように、和室やリビングに上がります。

この中土間は1階の中心に配置され、家の中の各場所と動線的につながっています。ソファーが置いてあり、中庭に面したくつろぎの空間となっています。大きな木製サッシの外側にテラスと中庭がゆるやかに繋がり、室内に居ながら外部を感じることができます。隣の和室のふすまを開けると一体的につながった空間になり、ふすまを閉めると部屋的な空間になります。この空間は玄関であり、応接間であり、居間でもあり、まさに生活の中心となっています。

この家のご夫婦はともに八尾町の出身で、お二人にとって土間空間は心の中の原風景であり、特別なものではありません。土間空間を生活の場の中心に据えたこの家は、ご夫婦にとって居心地の良い家となっています。

優秀賞 愛宕町の家

所在地
富山市愛宕町
建築面積
123.68m²
延床面積
185.84m²
竣工
2018年9月19日
建築主
室 裕司
設計
㈲青山建築計画事務所
施工
髙田建設㈱

講評

「百聞は一見にしかず」という言葉があるが、建築についてもまさにその通りだと思います。この住宅は、図面や写真から、精緻に計画された美しい住宅であると思いましたが、実際に訪問し空間体験させていただいたら、想像以上の空間の豊かさに大きな衝撃を受けました。短時間の訪問にもかかわらず、都会の喧噪を忘れ、光と緑が溢れる落ち着いた空間に身体が解放されていく感覚を覚えました。

その理由は、奥行きを感じさせる動線計画と巧みな平面計画にあるのではないかと思います。例えば、インナーコートを通るアプローチは、まさに数寄屋建築にみられる到達の儀式のごとく、街から住宅へ入る心の準備を与えてくれます。その空間は、単に人が通るためだけでなく、町家の坪庭のように、内部空間に光と緑を導き入れ、隣地からの視線の干渉する役割を果たしています。また、中央に配されたキッチンやテーブルの周りは、調理や食事をするためだけでなく、2階への主要な動線とも重なっていますが、絶妙なスケール感のため圧迫感を与えずに、人が動く空間と溜まる空間の両立が実現されています。

まさに都市部の限られた敷地条件と熟練の設計技術、住まい手の暮らしぶりの合致によって生み出された唯一無二の住宅であり、同時に都市住宅のひとつの完成形と思われます。10年後、20年後、この住宅が住まい手とともにどのように年を重ねていくか非常に楽しみです。

既存住宅状況調査オンライン講習のお知らせ

既存住宅状況調査技術者講習(更新講習)がオンラインで受講できます。職場やご自宅などで受講できますので、ぜひお申込みください。受講料は税込み17,000円です。

お申し込みはこちらから(日本建築士会連合会ホームページ)

※オンライン講習のお申し込みはWEB申込のみとなります。

二級・木造建築士の各種手続きについて

日本国内における新型コロナウイルス感染症のさらなる拡大が懸念されていることを受け、感染予防のため、二級・木造建築士に係る各種手続きにおいて、希望する方には郵送等による申請受付・免許交付を行うことと致します。
詳細は「新型コロナウイルス感染症の予防に配慮し、二級・木造建築士各種手続きにおいて、郵送による申請受付等を開始します。」をご確認ください。

令和元年度 第8回建築功労賞受賞者

4つの専門職域から4名が表彰されました。

第8回建築功労賞受賞者

建築大工

城 良則(城建築)

数多くの伝統工法による趣きのある住宅建築に取組み、プレカット工法では出せないバランス美、曲線美、重厚さ、強度を匠の技を駆使した手刻みによる加工と施行技術で造り上げてきた。

これらの経験や知識を次の世代に伝えるため、職業訓練校の指導員や各種講習会講師を長く務めてきている。

左官工

山下 省一(山下左官)

長らく左官職人として数多くの現場で技術を磨き、さらに、現役職人の目線で幾つもの左官道具を独自に考案し、技術の向上や作業の効率化にも貢献してきた。

また、職場の若手職人だけでなく、小矢部市の若手職人に工具を改良し作業の効率化を指導する講習会を開くなど後進の指導を行なっている。

型枠工

豊岡 隆(エムビー建設㈱)

高い知識と技術力を要求される公共事業等の大型物件を多く手がけ、安全管理にも努めこれまで無事故で施工してきている。会社では若手技能者の指導育成にも努めるともに、技能検定の講師として、100名以上の若手の技能向上に尽力した。

防水工

中野 裕一(㈱小島工務店)

防水施工を多数の現場工事で手掛け、技術を磨くと同時に防水関係の資格を多数取得し、後輩の模範となるよう努力している。後進の指導にも熱心に取り組んでおり、講習を通じて後輩5人の1級技能士資格取得につながったことなどのほか、若手技能者の技術向上に尽力した。

令和元年度 第50回富山県建築文化賞建築賞受賞作品

審査総評

今回から審査委員長を務めることになりました。富山県に生まれ育ち、いつか故郷の建築文化に貢献したいと志して東京で建築を学び、建築設計をライフワークとし、現在は金沢の大学で設計教育をしている私にとって、たいへん光栄な役職をいただきました。

最初に審査員としての私の思いを少し述べることにいたします。「どの応募作品の何に価値を見出して選定し、それをどのような講評文で記述するか」ということが建築賞の審査員に課された仕事です。審査員は作品を審査しますが、逆の見方をすれば、同時に応募者や社会から「建築にどのような価値を見出す能力がある人物か」という評価を受けているとも言えます。私は、設計者選定プロポーザル、各種建築賞、アイディアコンペなどの審査員を多数務めてきましたが、いつも「逆に審査されている」という意識で臨んできました。そして審査においては、その作品の何に価値を見出して評価するかを明確に意識しながら選定を行っています。

さて、本建築賞の審査委員会は6名の審査員で構成され、各々に異なるキャリアを通した見識をもとに各作品の評価をしています。建築設計を専門とする者のみによる審査会ではなく、審査員によって異なる多様な価値観を尊重しながら、入選作品を絞り込んでいます。今回の応募作品は、一般部門が4作品、住宅部門が7作品でした。例年よりも応募数が少ない状況であり、特に一般部門の応募が少ないことが目立ちました。一般部門に応募するモチベーションとして、「関係者一同で創り上げた成果を社会から高く評価してほしい」ということが考えられます。その時に、建築物の規模・用途やグレードなどにおいて、県・市・大企業が事業主の建築とはとても競い合えないと判断され、応募を見送られる場合が多いのではないかと推察します。対象範囲を広げた中部建築賞や北陸建築文化賞の一般部門との違いを明確にする意味においても、本建築賞の審査では、建築の大小やグレード感に惑わされることなく、厳しい建築条件やコストの中でも創意工夫により優れた成果を生み出し、富山県の建築文化の向上に刺激を与えている作品を高く評価しようと努めました。

一方、住宅部門においては、設計者と施主との間に夢の住まいを実現しようとする濃密な人間関係がありました。そして、その設計プロセスや成果をお互いに楽しんでいる光景が目に浮かびました。また、住宅部門に応募する常連とも言える数名の設計者が存在し、毎年応募しながら審査員との現地での会話を楽しんでいるようにも見えました。私はこの住宅設計に取り組む設計者のことを、審査員になった最初の年に、槇文彦氏が著した1979年の『新建築』時評「平和な時代の野武士達」の文章を思い出しながら説明しました。この言葉は大組織で「禄を食む」ことなく、自分を貫き力強く生きる建築家像を比喩した表現でした。6年後の今回も、現地で説明された設計者が、施主の夢を実現するために厳しい条件下で格闘し、自分の道を突き進んでおられる様を見て改めて感銘を受けました。

建築設計の仕事には、そのプロセスにおいて様々な苦労があります。また、けっして儲かる仕事ではありません。それでも転職することなく続けられるのは、社会や施主の夢を実現できる感動の瞬間があるからではないでしょうか。また、もう一つの喜びは、自身が行った仕事が社会から評価されることです。苦労を重ねて設計した建築が、社会から褒められる瞬間が最も嬉しい時です。本建築賞の入選もその一つとなり、新たなエネルギーを得て、次の喜びの瞬間に向けて夢を追い続けていかれることを願っています。

【審査委員長 蜂谷 俊雄】

 一般部門

優秀賞 道の駅雨晴

所在地
高岡市太田地内
建築面積
新設部分 421.51m²
延床面積
新設部分 977.39m²
竣工
2018年3月31日
建築主
高岡市
設計
㈱アーキヴィジョン広谷スタジオ ㈱創計画研究所
施工
北栄商会・大栄建設JV

講評

富山湾越しに雄大な立山連峰を眺望できる雨晴海岸は、富山を代表する名所のひとつです。そこに展望デッキのある「道の駅」が完成したと聞けば、多くの人が行ってみたいと思うに違いありません。目の前には富山湾と立山連峰、背面には山があり、道の駅は地形にうまく収まっています。美しい自然景観と一体のここだけの素晴らしい眺望、これには道路の無電柱化が大きく貢献しています。歩道整備や横断歩道の設置など、建築敷地外の周辺環境も一体的にデザインしたことが、場所の価値を飛躍的に高めています。公共事業だからこそ可能なことですが、公共事業だからこそ、かえって組織の壁や予算の制約、前例主義的な組織文化など、困難なことも多くあるなかで、本事業は今後の公共建築のひとつの模範を示してくれたといえます。

建築物としては、眺望を徹底的に意識したことが、平面・立面計画の随所から読み取れ、狭小な敷地に、それを感じさせない豊かな空間が生み出されています。白を基調とし、造形もシンプルですが、単調さは感じられません。西側の大きな曲面が建物全体にやわらかさを与え、地元素材が温かみと親しみを添えています。展望デッキは立体的な構成で印象深く、照明も夜間・昼間を問わずよく考えられています。

雨晴が今まで以上に魅力的で、富山の誇りを感じられる場所となりました。サイクルステーションも整備されているので、自転車を借りて行ってみるのもよいでしょう。

 

住宅部門

優秀賞 里山の家

所在地
富山市土
建築面積
135.46m²
延床面積
97.38m²
竣工
2017年10月20日
建築主
河上 剛之  河上 めぐみ
設計
水野建築研究所
施工
㈱長岡建築

講評

建築は竣工した時点で完成ではなく、使い手が使いながら長い時間を積み重ね、少しずつ味わいを加えていくものです。竣工や工事完了は手続き上のものであり、竣工は完成ではなくスタートなのです。設計や工事は建築のかたちを決めてつくるという極めて重要なプロセスですが、そこで大切なのは、使い始めてから如何にいい時間を積み重ねていけるのか、そのための準備を周到に行うことです。この「里山の家」は、まさにその考えを具現化したような住宅です。住まい手と設計者、施工者が、じっくり話し合い、アイデアを出し合い、じっくりと丁寧に、暮らしのスタートを整えていったことが伝わってきます。

棚田が広がる里山の奥という立地、緩やかな敷地の勾配、敷地から見える景色、住まい手の暮らしのイメージをもとに、スタディーが重ねられ、片流れの曲がり屋となり、北側には里山景観を見渡す大きな連続窓が設けられました。全く奇をてらうことなく、極めてシンプルで素朴な空間ですが、スケール感、細部のディテール、光や視界の取り込み方、スギや漆喰などの自然素材、どれもが緻密に練り上げられています。

まだ住み始められて1~2年ですが、様々な工夫が加えられながら、いきいきと楽しく暮らしている様子が伝わってきます。子供や家族の成長とともに時間を積み重ね、味わいを増していくことに違いありません。5年後、10年後、またそれ以降が楽しみな住宅です。

入選 石籠の家

所在地
射水市中太閤山
建築面積
119.86m²
延床面積
130.74m²
竣工
2017年12月13日
建築主
髙畑 裕一 髙畑 真理
設計
㈲濱田修建築研究所
施工
大野創建

講評

約50年前に整備された射水市太閤山の住宅地にあるこの家。ワイヤーメッシュ製の少し無骨な雰囲気の籠の中に割肌の石が積み込まれた「石籠」と、木目のコントラストが力強い「焼杉板」の壁面が印象的な外観です。

建物の輪郭はシンプルで大胆なのに、テクスチャーに重量感と複雑なデコボコ感があるため、荒々しくもどこか繊細な印象。規則的なようでいてひとつとして同じ形がありません。これらの細部に注目してみると、周囲の自然と共鳴し、懐の深い存在感を放ちはじめます。

この家の住人は、アウトドア好きの若夫婦。家の北側に広がる緑地帯が気に入って、ここに住むことにしたそうです。土地の高低差を活かしたレイアウトのおかげで、LDKの窓から見える景色は、まるで避暑地の森の中。住宅密集地とは思えぬ、みずみずしい開放感が家の中を満たしていました。

靴を脱ぎ、エントランスホールを抜けた先にある、「土間」のような空間も魅力的。薪ストーブが置かれたその場所は、ロビーのように心地よく人を迎える〝最初の間〟でもあり、マウンテンバイクを整備したりスキー板を調整したりする住人の〝趣味の部屋〟でもあるのです。

家の中は、外の自然や光を最大限取り込んで快適な空間に。外は、周囲の自然にとけ込みつつ、その美しさを増幅させる装置のように。その土地にある風景の恩恵を受けるだけでなく、その風景を、時間経過も考慮しながら育てていく意思のようなものを感じました。