審査総評
今回は一般部門で9点、住宅部門で2点の応募がありました。応募総数が少ない年でしたが、作品レベルは高かったと思います。審査委員6名は各々に異なるキャリアで培った見識をもとに作品を評価し、推薦する作品の何に価値を見出したかについて意見交換を行いながら審査を進めました。
1次審査は応募書類で行い、一般部門は9作品中6作品、住宅部門は2作品中2作品が現地審査の対象に選ばれました。現地審査は2日をかけて8作品を見て回り、事業主や設計者との質疑応答も行いました。最終審査会では8作品について意見交換を行った後に、6名の審査委員が各作品に点数をつけ、合計点数の高い4作品を入賞作品に選びました。次に4作品の中から優秀賞を2作品、入選を2作品選びました。
一般部門では、公共の大規模施設でなければ入賞は難しいのではないかという認識はなくなり、様々な規模・種別の建築の応募がありました。今回特筆すべきは民間施設で審査委員一同が感銘を受けた2作品があったことです。
「石動青葉保育園」では、園長先生が理想とされる幼児教育に対する哲学が巧みに空間に反映されていました。大学で教える建築計画の教科書の常識を覆すシーンが次々と展開し、幼児が主役の空間とは何かというテーマの原点を考え直す機会になりました。この作品を契機に今後の保育施設の在り方が変わっていくような予感がします。また、「サカサカ」は中心市街地の衰退が著しい高岡において、古い建物を再利用しようとする試みですが、街への開き方や古材の見せ方において、場所性を活かした独創性がありました。古材が露出された半屋外空間を見た若者が、建築は歴史が積層された時間軸の中で生きていることを感じる場所になるのではないでしょうか。優秀賞に選ばれた上記2作品は、建築雑誌に掲載される主流の作品の評価ポイントに影響されることなく、独自の発想をもとに現実の空間に翻訳されていました。この意味において、地方の建築賞ではありますが、富山県が全国に発表することができる独創的な建築として、審査委員全員が高く評価しました。
入選の「リードケミカル リサーチセンター」では、外光を入れられない製薬会社の研究所で働く人々の気分転換の空間として、上部の高窓から反射させた自然光を入れた階段空間にテーマを絞った見事な空間演出がありました。また、設計及び施工のレベルの高さも感じました。
また、「フルサワのイエ」は小店舗を併設する小規模な住宅ですが、端正な佇まいとスキップフロアーを活かした空間演出の巧みさを感じました。また、職人さんとのコラボで実現した建築細部の精巧な納まりは、一般的な建築工事の精度を越えたものでした。
入賞作品のみの審査評になりましたが、応募されたどの作品にも事業主・設計者・施工者のご苦労があったはずです。応募いただいた作品の関係者の皆様にお礼を申し上げます。
【審査委員長 蜂谷 俊雄】
一般部門
優秀賞 幼保連携型認定こども園 石動青葉保育園
- 所在地
- 小矢部市観音町5-4
- 建築面積
- 976.45m²
- 延床面積
- 1,786.95m²
- 竣工
- 2022年3月15日
- 建築主
- 幼保連携型認定こども園 石動青葉保育園
- 設計
- 岡本義富建築研究所
- 施工
- ㈱吉田組
講評
素晴らしい!素直にこの言葉で賛辞を贈りたいと思います。私だけでなく、他の審査員も皆、その考え抜かれた建築、子どもたちへのまなざし、底流にある価値観や思想に心を打たれました。0歳児から小学校就学前までのまだ小さな園児たちが、いかに多様性にあふれ、いかに無限の可能性に満ちた存在であるかということに、あらためて思いを致し、ここの園児たちは本当に幸せだとつくづく感じました。現地審査で私たちが見たものは、もちろん「建築」に違いないのですが、そこに実現されていたものは、物理的な建築というよりも、むしろ「生きた体験の空間」あるいは「愛情の交流の空間」とでも呼ぶべきものであって、「建築」という言葉にイメージされる人為的な何かではなく、人間本来のより根源的な意味での「自然」を感じさせられるものでした。この建物は外観と内部が非常に対照的にデザインされていますが、内部では子どもの成長にとって大切なことがひとつひとつ丁寧に考えられていて、それが緑の園庭とともに驚くほど変化に富んだ空間の数々として、しかしまったく肩肘張らない優しい空間として実現されています。どれだけ言葉を尽くしても、写真や図面を用いても、実際に見てもらう以外にこの建築の素晴らしさを伝えきることは難しいのですが、それはとりもなおさず、この建築がまさに実体の建築でしかなし得ない優れた価値を生み出したということにほかならないからなのでしょう。
優秀賞 サカサカ
- 所在地
- 高岡市坂下町86-1
- 建築面積
- 202.16m²
- 延床面積
- 385.8m²
- 竣工
- 2022年3月20日
- 建築主
- たかまち鑑定法人㈱ ㈱つつつ
- 設計
- 合同会社住まい・まちづくりデザインワークス 東京工業大学 真野研究室
- 施工
- ㈱スタジオオオスガ
講評
坂下町電停前の一区画、連続した3つの町屋を改修してできた長細い複合商業施設。1階にシェアキッチンを備えたフリースペース、2階にテーブルと椅子の置かれた休憩スペースのある共用棟を挟むように、2店舗と5店舗が入るテナント棟が両側に配され、コーヒースタンドやピザ屋など飲食・物販を中心に、実力派の若手事業者によって全7テナントが埋まっています。
この3棟は、戦前から戦後にかけて時期もバラバラに建てられ、長らく空き家でした。一部水路の上に違法増築されていた部分もありましたが解体され、来歴の違う建物はいまや一体となって整備され、小さな商店街のように生まれ変わりました。
とくに印象的なのは、電車通り側に大きく開いた真ん中の建屋。「アウトドアリビング」と名付けられた共用棟です。通り沿いの壁をべりっと剥いだように梁や柱がむき出しの、風雨をダイレクトに受ける半屋外の土間空間は、その無防備さに一瞬ドキリとします。しかし、だからこそ敷居が低く、誰でも気軽に入れて、居心地もいい。繰り返された増改築の変遷が自然と目に入るデザインのおかげで、過去の住人たちの息遣いまで聞こえてきそうです。
このスペースは、業種問わずテナント関係者や周辺事業者などが利用できるため、調理販売やワークショップなど既存店舗の機能拡張や新たなチャレンジの場にもなっているほか、クラフト市場町をはじめ地域イベントとのタイアップにより、まちの可能性を広げる場にもなっています。
1階の半分は濡れ縁になっています。両側のお店で買った飲み物で一息ついたり公共交通を待ったりするのにちょうどよく、昼夜問わず自由に使える「まちの縁側」のよう。万葉線が通るたびに合図してくれます。フランクさやゆるさの漂う共有空間が、日々買い物をするエリアに内包されていることに、豊かさや広がりを感じます。こういう空間でこそ、人々の自尊心や自主性が取り戻され、創造性が引き出され、有機的なつながりが生まれるのではないでしょうか。
増え続ける空き家を活用すべく、地元の事業者や県内外の専門家、学生らとともに課題に向き合い続けたオーナーさんが、仲間とともに様々な試行を重ねてたどり着いたのは、自分たちがわくわくする場所を自分たちの手でつくり育てていくということ。売る側も買う側も、そして今日は買わない人も、まちの暮らしを豊かにするための担い手であるということに、改めて気づかされたプロジェクトでした。企画から設計・施工、そして日々の運営までをみんなでやるという、住民主体のまちづくりの好例として、今後の取り組みが非常に楽しみです。
入選 リードケミカル リサーチセンター
- 所在地
- 富山市日俣77-3
- 建築面積
- 1,460.59m²
- 延床面積
- 5,358.68m²
- 竣工
- 2021年10月31日
- 建築主
- リードケミカル㈱
- 設計
- 竹中工務店名古屋一級建築士事務所
- 施工
- 竹中工務店名古屋支店
講評
リードケミカル リサーチセンターは、経皮吸収型製剤のパイオニアであるリードケミカル株式会社の、新たな創薬開発を目的とした4階建ての新しい研究棟です。
最大の特徴は、普段はコアの隅に追いやられることが多い「階段」を主役に抜擢し、中央に据えて「きらきらと輝く」吹き抜けの空間を創造したことです。「ササラ」と命名されたこのシンボリックな階段には、側面に反射パネルが幾何学的に貼られ、屋上の反射板から降り注ぐ心地よい光を反射・拡散させながら最下階まで運びます。この開放的な吹き抜けは、誰もが思わず上を仰ぎ見たくなる安らぎの空間です。
研究施設は、温度や湿度の変化を嫌うため、窓からの直射日光や結露を避ける必要があり、建物は外部に対して閉ざされてしまいます。研究者は、閉ざされた部屋で高度に集中する作業を行うため、心身共に疲労が大きいことが課題であったとのことですが、内部に開かれた空間を作ることで研究者の心身の解放と交流の場を提供しています。
外壁には、アルミのサンドイッチパネルを貼り付けて製薬会社らしい清潔感を演出するとともに、黒いスリット部分にガラリや排煙窓などの機能を収めており、それらの対比がシンプルな外観にリズムを与えています。
また、このアルミパネルは、立山連峰を背景として四季折々の色の変化を映し込み、新しい研究棟は地域の新たなランドマークとなっています。
住宅部門
入選 フルサワノイエ
- 所在地
- 富山市
- 建築面積
- 81.83m²
- 延床面積
- 105.42m²
- 竣工
- 2021年10月18日
- 建築主
- 梶 杏次
- 設計
- DOKO一級建築士事務所
- 施工
- ㈲穴田工務店
講評
住宅は、すまい手と建築家、そしてそれをつくる施工者の協働作業でつくられます。フルカワのイエは、夫婦と小学生と猫のすまいで、奥様は子供服のセレクトショップを一角で営んでいます。この住宅を訪れると、シンプルな暮らしや家族のつながりを大切にしていることがひしひしと伝わってきます。
建築家は、すまい手のめざすくらし、敷地や予算などさまざまな条件を十分読み解き、洗練された細部のデザインを駆使し、コンパクトでありながら広がりや奥行を感じられる空間をつくりだしています。具体的には、椅子に座る食卓をなくし、家族が食事やくつろぐリビングをキッチンから400㎜高くし、リビングから2階の壁が腰までしかないベッドスペースや子供室までの高さを抑え、玄関から2階へと伸びやかに抜ける空間構成をつくりあげています。そして、シンプルな限られた種類の仕上げ材に絞り、それらの素材がぶつかる端部のディテールをすっきりとシャープにデザインしています。
そして施工した職人さんは、建築家がめざす空間や細部のデザインに応え、あるいはそれ以上に丁寧で見事な技術で、建築家の計画を具現化しています。細部やコーナーのおさまりは圧巻です。
このようなすまい手、建築家、そして素晴らしい技術と誇りをもった施工技術や職人技の見事な協働作業は、富山ならではの住宅のつくりかたのひとつの可能性を示していると思います。