令和2年度 第51回富山県建築文化賞建築賞受賞作品

審査総評

今年は新型コロナウィルス感染対策に世界中が悩まされた年でした。本建築賞においても、応募数が激減するのではないかと懸念しましたが、昨年の倍の応募数がありました。

本建築賞の審査委員会は6名の審査員で構成され、各々に異なるキャリアで培った見識をもとに作品を評価し、推薦する作品の何に価値を見出したかについて意見交換を行いながら審査を進めました。1次審査は応募書類で行い、一般の部は10作品中4作品、住宅の部は13作品中5作品が現地審査の対象に選ばれました。現地審査は2日をかけて9作品を見て回り、事業主や設計者との質疑応答を行いました。最終審査会では9作品について意見交換を行った後に、6名の審査員が各々5作品を推薦しました。この時点で5名以上が推薦した4作品を入賞に決定しました。その他の作品については、審査員の半数以上が入賞に値すると認めた作品がなく、入賞作品は4作品になりました。次に4作品の中から優秀賞を2作品、入選を2作品選びました。入賞作品数については、今年は前年の2倍の応募数があったことから、5~6作品に増やすことも考えましたが、本建築賞の価値を維持するために、応募総数に応じた相対評価ではなく、過去の入賞作品と同等以上であることを確認する絶対評価とすることにしました。

一般建築部門では、公共の大規模施設ではなく、民間の小空間が高い評価を得たことが特筆できます。一つはコンテナを使用した飲食横丁であり、もう一つは浄土真宗寺院の納骨ロッカーでした。両作品に共通することは、建築的テーマに対し、事業主と設計者が既成の発想にとらわれることなく思考を巡らせ、設計者のデザイン能力が十分に引き出されていたことです。小・中学校や研究所等の大規模作品の応募もありましたが、審査員には類似施設の既成の発想のバリエーションの違いとして映りました。大規模建築の設計プロセスにおいては、多数の人々の合意を得るために社会性・合理性が重視され、前例主義になりがちです。前衛的な試みがない場合においても、富山県の建築文化の向上という視点において、同種の他の建築を上回る工夫がなされているかを審査しました。一方、住宅部門では、施主と設計者が意気投合すれば、社会性・合理性を超えた住居のつくり方があり得ます。その意味において大規模建築よりも自由度があり、独創的な作品が生まれる可能性があります。しかし優秀賞の2つの住宅は独創的あるいは前衛的な作品ではありません。「愛宕町の家」は日本古来のアプローチ空間の演出手法を用い、「インナーパティオのある家」も日本古来の土間空間を採り入れたものでした。共に時間軸の中で培われた魅力ある住居形式を現代の生活に採り入れた「歴史と現代の接点に建つ家」ということができると思います。

【審査委員長 蜂谷 俊雄】

 一般部門

入選 あまよっと横丁

所在地
富山市総曲輪3-12-2地内
建築面積
150.52m²
延床面積
145.18m²
竣工
2018年9月25日
建築主
㈱アトム
設計
㈲濱田修建築研究所
施工
大野創建

講評

富山市中心市街地のアイコン的空間でもあるグランドプラザから、総曲輪通り商店街をはさんで目と鼻の先、ヒューマンスケールの街路の一角に「あまよっと横丁」があります。ひとつの敷地に、小さくも独立した飲食店が並び、そこに新たな路地、まさに「横丁」が形成されています。各店舗はコンテナを改造したシンプルな造りですが、元の敷地に絶妙なバランスで収まり、店舗と路地のスケール感がうまく調和しています。コンテナを店舗に使用すること自体は、最近では特に目新しいとも言えませんので、必ずしもコンテナであること自体を評価したのではなく、むしろそれらが中心市街地に生み出した「横丁」としての空間や、ある種のおもしろさ、そして各コンテナに施された丁寧なディテールを評価しました。地上に並ぶ7つの店舗、それにトイレや事務所に使われているコンテナは、いずれも新品を改造したもので、かつ、剥き出しのコンテナではなく、主要面をガラス張りにした上品な仕上がりになっています。塗色も落ち着いた色調で、照明もよく考えられています。2階に積まれた3台のコンテナには室外機が収められていますが、ここにはあえて多少のへこみのある中古のコンテナが用いられ、まるで以前からあったような風合いを醸し出しています。細部にまで気を遣った丁寧な作り込みは、一時的な簡易店舗としてのコンテナ利用ではなく、中長期を見据えて街に賑わいを生み出そうとする新たな個性ともいえるでしょう。

入選 郷の納骨ロッカー

所在地
魚津市持光寺定籍
建築面積
改修対象部分 40m²
延床面積
改修対象部分 40m²
竣工
2018年7月30日
建築主
慈興院大徳寺
設計
一級建築士事務所㈱本瀬齋田建築設計事務所
施工
㈱宝来社

講評

既存の建物である「特賜殿」の一角を改修してつくられた慰霊の場所。最も印象的なのは、高さの異なる8列の角材で表現されたスダレ。寺社の庇に見える垂木を想起させます。その下にシンプルなロッカー型の納骨棚があります。由緒ある建物をできる限り活かすよう、新たな建具や什器がよく練られたデザインと丁寧な手仕事で加えられ、美しく整えられた内装。ごく小さな空間ながら懐深い世界観を体感できます。

足を踏み入れたとき、心地よい緊張感が漂っているのを感じました。荘厳さというよりは「親しみやすい神聖さ」とでも言いましょうか。室内を包むやさしい光と香りが徐々に体に浸透し心を癒してくれるようで、身を置いていると、じわじわとこの場所に愛着がわき、満たされた気持ちになってきます。細長いつくりが縁側的でもあり、気軽にふらっと立ち寄り長居したくなる空間です。

少子高齢化やライフスタイルの変化で、人々の墓離れ・寺離れは加速しています。真宗王国と言われる富山でも、仏間のない家や墓仕舞いをする人も増えているようです。この空間を改めて見てみると、長きに渡り地域のコミュニティ醸成の場であった寺の機能を再定義する試みであると同時に、各家で守っていた仏間や墓の機能をコミュニティの中に拡張し、死者を通じてもたらされる様々な「ご縁」を、互いに共有し増幅する試みでもあると感じます。

地域・コミュニティの在り方のみならず家族の在り方や一人ひとりの生き方を穏やかに問い、「ご縁」によってサステイナブルな未来をつくる場なのだと思います。

 

住宅部門

優秀賞 インナーパティオのある家

所在地
富山市有沢
建築面積
172.39m²
延床面積
193.19m²
竣工
2019年3月26日
建築主
小林 恵  小林 真樹子
設計
荒井好一郎建築設計室一級建築士事務所
施工
<分離発注工事>

講評

家の外観は、屋根を前面に低く葺き下ろして圧迫感を抑えた、落ち着いた印象です。

来客は、大割の鉄平石と山採りの植栽で自然を感じられるアプローチを抜けて玄関ポーチに進みますが、この家には靴を脱ぐ玄関がありません。大きな軒下空間のポーチ土間をくぐり、土足のまま通り土間を抜けると、インナーパティオと名付けられた中土間にたどり着きます。そこで、古民家や町家で靴を脱いで小上がりに上がるように、和室やリビングに上がります。

この中土間は1階の中心に配置され、家の中の各場所と動線的につながっています。ソファーが置いてあり、中庭に面したくつろぎの空間となっています。大きな木製サッシの外側にテラスと中庭がゆるやかに繋がり、室内に居ながら外部を感じることができます。隣の和室のふすまを開けると一体的につながった空間になり、ふすまを閉めると部屋的な空間になります。この空間は玄関であり、応接間であり、居間でもあり、まさに生活の中心となっています。

この家のご夫婦はともに八尾町の出身で、お二人にとって土間空間は心の中の原風景であり、特別なものではありません。土間空間を生活の場の中心に据えたこの家は、ご夫婦にとって居心地の良い家となっています。

優秀賞 愛宕町の家

所在地
富山市愛宕町
建築面積
123.68m²
延床面積
185.84m²
竣工
2018年9月19日
建築主
室 裕司
設計
㈲青山建築計画事務所
施工
髙田建設㈱

講評

「百聞は一見にしかず」という言葉があるが、建築についてもまさにその通りだと思います。この住宅は、図面や写真から、精緻に計画された美しい住宅であると思いましたが、実際に訪問し空間体験させていただいたら、想像以上の空間の豊かさに大きな衝撃を受けました。短時間の訪問にもかかわらず、都会の喧噪を忘れ、光と緑が溢れる落ち着いた空間に身体が解放されていく感覚を覚えました。

その理由は、奥行きを感じさせる動線計画と巧みな平面計画にあるのではないかと思います。例えば、インナーコートを通るアプローチは、まさに数寄屋建築にみられる到達の儀式のごとく、街から住宅へ入る心の準備を与えてくれます。その空間は、単に人が通るためだけでなく、町家の坪庭のように、内部空間に光と緑を導き入れ、隣地からの視線の干渉する役割を果たしています。また、中央に配されたキッチンやテーブルの周りは、調理や食事をするためだけでなく、2階への主要な動線とも重なっていますが、絶妙なスケール感のため圧迫感を与えずに、人が動く空間と溜まる空間の両立が実現されています。

まさに都市部の限られた敷地条件と熟練の設計技術、住まい手の暮らしぶりの合致によって生み出された唯一無二の住宅であり、同時に都市住宅のひとつの完成形と思われます。10年後、20年後、この住宅が住まい手とともにどのように年を重ねていくか非常に楽しみです。