平成29年度 第48回富山県建築賞受賞作品

一般の部

優秀賞 富山県リハビリテーション病院・こども病院

所在地
富山市下飯野36
建築面積
9,781.96m²
延床面積
19,154.91m²
竣工
平成27年10月30日
建築主
富山県
設計
佐藤総合計画・創建築事務所JV
施工
佐藤工業・前田建設工業・日本海建興JV 北陸電気工事・開進堂・ケイ電工JV 太閤産業・森商事・中央管機カクユーJV 日本空調北陸・昭和工業JV 近藤建設・相澤建設・竹原工務店JV コロムビア電設工業・森山電気製作所JV 日本海調温㈱ 日本海建興㈱ ㈲三光電氣 林建設㈱

 講評

これは3施設を再編したもので、建て替え方や配置、旧病院の再利用に計画の緻密さが見られます。病院はRC造5階建、西側のこども支援センターは平屋です。玄関を入ると南面する外来待合に柔らかい光が注いでいます。東側のリハビリ施設は縦の動線により上階と結ばれ、立山連峰を眺めながら上下できる展望リハステップを経た各階談話室からも同じ眺めを楽しめます。8の字回遊式の病棟は、ナースステーションからの視線が行き届き看護単位動線が短くなっています。病室はゆったりとしていて、西側4床室にはファミリーラウンジが完備され、ワーロン紙間仕切りによる光やプライバシー、音が十分配慮されています。周囲の田園風景に大きく開かれた病棟の開放感は、アアルトのパイミオのサナトリウムでの森との一体感を思い出しました。

小児外来を配した病棟2スパンから西側がこども支援センターです。病棟2階の通所ゾーンから八角形の交流ロビー、前面の訓練ゾーン、西側の平屋の入所ゾーンへと屋根が起伏しながら多くの中庭に向けて子供のスケールに変化し、内外の空間が豊かに絡まった生活ゾーンを形成しています。センター全体の外装色は明るく、内部にはこども療養環境アートが豊富に導入され楽しい雰囲気を演出しています。内外部の空間が適度に複雑に、症状や年齢に応じて、明快な全体を分節し、子供たちと家族の生活交流やスタッフの活動を暖かく支援しているように感じました。

優秀賞 富山BPOタウン


所在地
射水市黒河846-1、池多285-1
建築面積
9,280.04m²
延床面積
10,824.73m²
竣工
平成27年11月30日
建築主
㈱プレステージ・インターナショナル
設計
㈱久米設計
施工
㈱大林組北陸支店

講評

日本の建築関係者が本作品の配置計画図を見るとき、広大な敷地に施設機能ダイアグラム図がそのまま建設されていることに驚くでしょう。日本ではまれな恵まれた敷地環境に、建築計画の教科書に最初に描かれるような機能連関図そのままの状態で施設配置が実現しています。このように施設配置の第一印象がそのまま図式化されるような計画案は、理想を追い求めた学生作品で見かけることはありますが。

本施設の中央には、外界から隔離された中庭を囲むように円環状のパブリック動線があり、そこにはラウンジ・カフェ・ミニアリーナ・ミーティング室などが点在し、街中を散策するような感覚で巡ることができます。この円環回廊を巡っていると、この地が太閤山ランドの麓にあることも一瞬忘れ、憂き世を離れた別世界のように感じられます。また、フィンガー状に周辺に延伸する各ゾーンには、3つのオフィスエリアと、独身者のシェアーハウス、託児所などがあり、企業のオフィスというよりは1000人収容の小さな街のようです。

電話のオペレーターというストレスのある職場において、できるだけ快適に過ごせる演出やリフレッシュ機能が考慮され、子育て中の女性も働けるような工夫がなされているなど、事業主の労働環境改善への高い意識が感じられます。また、地方経済という点においても、企業誘致、雇用創出において大きく貢献し、今後の富山県への企業進出の良い範例としてアピールできそうです。

入選 MUHI SKIN RESEARCH CENTER

所在地
中新川郡上市町神田16
建築面積
1,304m²
延床面積
4,445m²
竣工
平成26年12月1日
建築主
㈱池田模範堂
設計
㈱プラナス
施工
清水建設㈱北陸支店

講評

これは、「ムヒ」ブランドで世界にも展開している上市町の池田模範堂が、平成26年、新たな研究開発の拠点として同地で新築された施設です。鉄骨造4階建、延べ面積4,445㎡の長方形の建物で、白壁の個性的な外観は、製品の白いクリームや容器、眼前の立山連峰をイメージしたでこぼこ、人の肌の角質層を表現したものだそうです。設計に際しては、「コミュニケーションをとりやすくすること」「想像力を最大限に発揮できること」「最新の研究ができること」の3つのテーマに基づき、特にコミュニケーションに関しては、「スキップフロア」や「パブリックラウンジ」を設けるなど、人と情報が常に流れ、社員の一体感が生まれるように配慮されていました。

オフィスはやや窮屈な印象も受けましたが、閉鎖的で画一的になりがちな研究施設にあって、多様性があり良好な環境となるような工夫が随所に見られました。心理的な効果を狙って部屋ごとに壁の色を変えたり、最上部には雄大な立山連峰の眺めを独り占めできる「空想テラス」が設けられていました。ゆったりとした螺旋階段の室内にも、薬産業の分野で躍進を続ける同社を象徴するように昇り龍の図柄をイメージさせる独特の左官壁や建物名が表現された手摺を設けるなど様々な工夫がされていました。

立山連峰のパノラマが望める4階会議室で、社長が自ら新社屋にかける熱い想いを語っておられたのが印象的でした。

住宅の部

優秀賞 花火台の家

所在地
高岡市中曽根
建築面積
91.00m²
延床面積
156.95m²
竣工
平成26年4月10日
建築主
海老江 大輔
設計
一級建築士事務所水野行偉建築設計事務所
施工
㈲高桑ハウス工業

講評

船のブリッジのようなファサードです。関西で走っていたJRのオレンジ色の電車をも思い起こさせます。この建物の外壁は濃いブラウンです。要塞のようになりましたと説明を受けました。動きを感じます。塔を後部に配置しているので威圧感は希薄ですが、周辺に溶け込む前面の雰囲気も欲しいと感じました。おそらく要塞のイメージは、窓が少なく容易に侵入できそうにない外観だけでなく、内部の構成からもきているようです。

内部が楽しい。基地なんです。とにかく段違いに面が構成されており、移動できるのが楽しい。足腰が鍛えられそうです。健やかなQOLを維持する装置ともいえましょう。夏の花火を鑑賞するという方形屋根の塔へ登るのは、梯子です。登って見上げると屋根の一面がガラスになった三角の窓から、空が見えます。非日常の空間が楽しい。この塔から降りるには梯子をつかうほか、なんて呼ぶのだろう、緊急出動の際の滑り棒があってそれで一直線というショートカットもあります。とにかく毎日が楽しくなりそうです。螺旋の一部のような廊下がパティオを回遊して、デッキからキッチンへ繋がっています。小上がりのような和室の居間やアーチ状の開口なども変化に富んでいますが、空間が連続してまとまっていました。セキュリティーを重視した外壁に包まれた内部は、パティオから光が入るので暗くありません。施工の出来栄えもよかったです。

入選 10×10 HOUSE

所在地
滑川市柳原
建築面積
130.18m²
延床面積
180.07m²
竣工
平成27年9月24日
建築主
吉森 豊
設計
㈲法澤建築デザイン事務所
施工
㈲法澤建築デザイン事務所

講評

変形とんがり屋根のカタチは、軽くランドマークとなりながらも、ボリュームは抑えられ、近隣の住宅や向かいの公園、立山連峰の眺望との関係をうまく得ています。

依頼主の「平屋に近いライフスタイル」と「高断熱」という要望に、10m×10mの正方形というカタチのエコロジー&エコノミーで答えた秀逸の作です。

設計者の言う「古来からのプリミティブな正方形プラン」を現代の合理的な生活スタイルにうまく組み替え、ちょっと個性的でヒューマンスケールの、小さくても豊かな住まいを作っています。

LDKはシンプルで開放的に繋がり大きく回遊させつつ、コア部分の小さな回遊も快適。来客が多い住み手にとって、プライベートな空間を感じさせない空間の配置は絶妙です。玄関や外部の機械室も正方形内に組み込み、表裏を感じさせない外観に好感が持てます。

屋根の頂点をずらされていることで、2階の空間がユニークな屋根裏空間に。意外に広く感じられました。吹き抜けに面して木製の折り戸とカウンターが設えられたワークスペースは、1階の居間と積極的に繋がる良い雰囲気を作り出し、遊び心を感じさせます。変形の小屋裏はプレカットと手刻みの技術的挑戦。完成度の高い登り梁と板地のコントラストが軽快なリズムを生み出し、若い家族の明るくカジュアルな空間を作り上げています。