令和3年度 第52回富山県建築文化賞建築賞受賞作品

審査総評

審査委員会は6名の審査員で構成され、各々に異なるキャリアで培った見識をもとに作品を評価し、推薦する作品の何に価値を見出したかについて意見交換を行いながら審査を進めました。1次審査は応募書類で行い、一般部門は11作品中5作品、住宅部門は6作品中3作品が現地審査の対象に選ばれました。現地審査は2日をかけて8作品を見て回り、事業主や設計者との質疑応答を行いました。最終審査会では8作品について意見交換を行った後に、6名の審査員が各作品に点数をつけ、合計点数の高い5作品を入賞作品に選びました。次に5作品の中から優秀賞を3作品、入選を2作品選びました。応募総数は昨年の23作品に対して今年は17作品に減りましたが、今年は特に一般部門の応募作品のレベルが高く、入賞作品数が昨年より多くなりました。

一般部門では、公共の大規模施設でなければ入賞は難しいのではないかという認識が薄れ、公共・民間合わせて様々な用途・種別の建築の応募がありました。優秀賞に選ばれた「富山銀行本店」は、ウイング・ウイング高岡の完成以降進んでいなかった高岡駅前広場において、駅の整備に続く広場の顔となる大規模オフィスの整備です。巨大なアルミルーバー・スクリーンとその夜の光の演出により、地域の銀行として駅前広場の景観に貢献することで高岡を元気にしようとする企業の意思が伝わってきました。また、「海王丸パーク駐車場トイレ」は、小規模な公衆トイレではありますが、名建築としての要件を備えた外観や空間構成が高く評価され、公衆トイレのイメージを変える作品でした。入選に選ばれた「Domaine Beau」は、自然豊かな丘陵地に建つワイナリーですが、遠景~近景の様々な視点において、ワインレッドの環境アートのように映る魅力ある建築でした。また「富山県議会議事堂リニューアル」は、谷口吉郎氏が基本設計の監修を行ったモダニズム建築の特徴を残しながら、内装の主材料を繊細な木リブにすることで、今の時代感覚に相応しいイメージに改修していました。

住宅部門では「街なかのライトコートハウス」が優秀賞に選ばれました。狭小住宅のライトコートに、諸スペースをスキップフロア形式で絡めながら、空間の広がりや視線の誘導が巧みに演出され、書類審査では把握できない狭小空間の魅力を現地で感じました。今年は住宅作品の応募が少なく低調でしたが、現地審査後の採点では本作品のみが全審査員が高く評価し、住宅部門で唯一選ばれることになりました。

6名の審査員の各々が採点し、合計点により入賞が決まる審査形式でしたが、審査員によって強く推薦する作品が異なりました。設計者の独善的なコンセプトや論理は、建築設計を専門とする審査員には理解できても、一般の審査員には理解されないこともあります。その意味において、本建築賞に選ばれた作品には誰からも理解される建築の魅力があったと思います。

【審査委員長 蜂谷 俊雄】

 一般部門

優秀賞 富山銀行本店

所在地
高岡市下関町3-1
建築面積
971.52m²
延床面積
6422.06m²
竣工
2019年11月14日
建築主
㈱富山銀行
設計
㈱日建設計一級建築士事務所
施工
清水建設・佐藤工業・石黒建設・砺波工業・寺崎工業JV

講評

県西部の玄関口である高岡駅前広場に面する富山銀行本店。創業以来、産業の発展を支え、地域とともに育んできた「郷土愛」が結晶化されたような建築物です。全長40m・65段からなるアルミ製の水平ルーバーは、日中は「金属のまち高岡」を象徴するような、素材感際立つ凛としたファサードとなり、日没後には高岡の自然や文化の魅力を映し出す大きなスクリーンとなります。ルーバー下面に配列された1,046本ものフルカラーLEDが、間接光となって大壁面を優雅にたゆたい、時季に合わせた演出プログラムによって駅前の景観を上品に彩ります。

合理性・経済性が最優先にされがちな一民間企業のオフィス建築ながら、これほどまでに美しいまちの顔としての存在感を示せるのかと驚きました。特にライトアップに関しては、巨大な屋外広告物となるため計画の段階から行政との入念な協議を踏まえ、「郷土愛」を主軸に産官学民の様々な主体を巻き込んだ整備が進められた点、また、完成後の発展的な活用を前提として、人々の目を楽しませるという付加価値を追求している点に、地域を支え地域とともに歩む地元銀行としての矜持と覚悟を感じました。

企業の価値と地域の価値をしっかりと結び付けて考え、経済性・合理性と美意識・個性を両立させ、理想と現実のギャップに真摯に向き合い、一企業が地域にできることを最後まで模索し続ける姿勢が、この建物に体現されていると思います。

まちの風景は、そこに暮らし、訪れ、関わるすべての人々の活動の結果できあがるものです。駅前の景観を変え、道行く人々の意識を変え、ひいては地域の価値を高める美しい装置であると言えます。

優美な外観に対して、裏側には強い意志が垣間見えます。

優秀賞 海王丸パーク駐車場トイレ

所在地
射水市海王丸町15
建築面積
157.6m²
延床面積
157.6m²
竣工
2017年12月17日
建築主
富山県
設計
㈲青山建築計画事務所
施工
㈱牧田組

講評

公園にある公衆トイレはこの程度で良いという固定観念が社会にあります。これに対し、本トイレには名建築と呼べる建築デザインの要件が揃っていて、それが合理的かつローコストで実現されていました。小さなトイレであっても、それは建築であり、建築としての威厳を保つことの意義を見せてくれました。

中央に通風・採光のための光庭を配し、それを囲むように対称配置の男女のトイレがあり、さらにその外周に回廊が回っています。単純明快な平面構成を前提に、2方向の出入口、人が佇む回廊状の庇下空間、プライバシーと解放感を満足する開口部など、公衆トイレに必要な機能性を巧みに備えています。さらに、庇を支える列柱を前面に出したシンプルな外観はプロポーションが良く、西欧の古典建築を想起させるものがあり、また、必要最小限の要素で建築を表現するレス・イズ・モアに通じるイメージもあります。

次に事業主の取組姿勢について述べます。小規模建築ではありますが、景観上重要な場所ということで設計者選定プロポーザル方式によって本案が選ばれ、高いレベルの公衆トイレが実現できたことは高く評価できます。

しかし、現地を見ると、その周囲には無造作に配置されている自動販売機、キュービクル、トイレ誘導サインがあり、景観を損ねていました。トイレ単体の管理はできていますが、駐車場エリア全体の景観を考慮したエリアマネジメントがなされていないことが残念でした。

入選 Domaine Beau

所在地
南砺市立野原西1197
建築面積
946.95m²
延床面積
794.01m²
竣工
2020年2月28日
建築主
トレボー㈱
設計
㈱創建築事務所
施工
スター総合建設㈱

講評

このワイナリーは、南砺市立野原の自然豊かな丘陵地に建設され、マタドールレッドの外壁がランドマークとしての存在感を主張しつつも、見事に周囲の緑に溶け込んでいます。外壁は地場産材のアルミ鋳物で、表面に凹凸のある名栗紋様を施し、陰影に奥行き感を与えて季節や天候、時間により様々な表情を見せます。

建物は物販エリアと製造エリアに分かれますが、北側に面した物販エリアからは砺波の散居村や二上山、遠くは富山湾まで一望でき、また製造エリアのタンクや作業風景を観察できる内窓が設けられています。内部の壁面には外壁の仕上げを連続させ、一体感のある意匠となっています。製造エリアの醸造機器は、イタリアやクロアチア製の最新設備が導入され、この地のワイン造りに適した環境が整っています。

過疎化が進み耕作放棄地が増えていましたが、この地をフランスのブルゴーニュ地方に似ていると考えられた施主は、熱い情熱をもってぶどう園とワイナリーを作り、果

樹の郷として蘇らせ、今後さらにカフェ・レストラン、パン・チーズ工房、グランピング会場などを整備する構想を持っておられます。

このワイナリーから、南砺の新しい文化が生まれ、発信されていくことが期待されます。

入選 富山県議会議事堂リニューアル

所在地
富山市新総曲輪地内
建築面積
2196.8m²
延床面積
6030.72m²
竣工
2017年8月11日
建築主
富山県
設計
富山県建築設計監理協同組合
施工
辻建設・石坂建設・村松建設JV

講評

この県議会議事堂は、もとは50年前(1971年)に竣工したもので、正面と側面に配置された3階までの高さの御影石の列柱とその上部に載るマッシブな4階部分、それらで構成された端正なプロポーションと緻密でリズミカルな配置構成、4層吹き抜けのエントランスホールなど、上質なモダニズム建築としての風格が強く感じられるものでした。富山の建築文化を支えてきたこの議事堂も、その後の基準改定や外装・内装材、設備等の老朽化により、耐震補強をはじめとする様々な機能改善が求められるようになり、改修にあたっては、構造、機能面はもとより、いかにして、もとのデザインが有していた社会的、文化的価値のエッセンスを損うことなく現代の洗練を加えて次代に継承していくかということが重要なテーマになったと思います。今回のリニューアルは大規模な改修だったにもかかわらず、その仕上がりからもとの建築への深い敬意が感じられるとともに、木製ルーバーを用いた繊細で温かみのあるデザインにより、現代的な親しみやすい建築として再生されています。当時の最善が尽くされた建築に敬意を払い、そこに現代の新たな価値を加えてより良いものとして引き継いでいく、あたかも「連句」のようなデザインに、建築としてのひとつのあるべき姿を見たように思います。

 

住宅部門

優秀賞 街なかのライトコートハウス

所在地
富山市下新町
建築面積
94.79m²
延床面積
172.72m²
竣工
2018年10月3日
建築主
永山 敬健
設計
富田愛子建築設計事務所
施工
五十嵐建設㈱

講評

多くの人にとって、家をつくることは一生に一度か数回しかない一大事であり、自分たちの家族と暮らしを見つめ直し、様々な期待やイメージを抱きます。しかし、それらの期待やイメージは漠然としており、それらに具体的なかたちと秩序を与えることが建築家の仕事です。建築家は、住まい手がイメージできない長期的な視点や、様々なノウハウを持っていますが、一方で住まい手とのやり取りを通じて、建築家だけでは思いもつかない様々なアイデアや工夫が生まれてくることも多々あります。この住宅は、そのような住まい手と建築家の理想的なコラボレーションがつくりあげた唯一無二の「暮らしの場」です。

ハウスメーカーやデザイン会社からのいくつもの提案にピンとこなかった住まい手に対し、建築家はひとつの案や自分のスタイルを押し付けるのではなく、何が求められているのかを検証するために、いくつものスタディー案を提示し、それらの具体的な形をもとに住まい手と建築家の議論が繰り返されました。その結果、オープンガレージ、ライトコート、スキップフロアなど、この住まいを特徴づける重要なコンセプトが生み出されました。この家ではすべての空間において、住まい手の暮らしぶりが手に取るように伝わってきます。このようなプロセスを経て生み出されたこの家は、住まい手の家族の成長とともに年月を積み重ね、ますます味わいが増してくることと確信します。