令和4年度 第53回富山県建築文化賞建築賞受賞作品

審査総評

今回は一般部門で7点、住宅部門で6点の応募がありました。審査員6名は各々に異なるキャリアで培った見識をもとに作品を評価し、推薦する作品の何に価値を見出したかについて意見交換を行いながら審査を進めました。
1次審査は応募書類で行い、一般部門は7作品中4作品、住宅部門は6作品中3作品が現地審査の対象に選ばれました。現地審査は2日をかけて8作品を見て回り、事業主や設計者との質疑応答も行いました。最終審査会では8作品について意見交換を行った後に、6名の審査員が各作品に点数をつけ、合計点数の高い4作品を入賞作品に選びました。次に4作品の中から優秀賞を2作品、入選を2作品選びました。
一般部門では、公共の大規模施設でなければ入賞は難しいのではないかという認識がなくなり、様々な規模・種別の建築の応募がありました。優秀賞に選ばれた「花水木の庭(広場路の長屋)」は、敷地内で完結することなく、街の賑わいや人々の活動を誘発する斬新なコンセプトを実現し、小規模民間施設でも地域に貢献できることを示す秀作でした。入選に選ばれた「砺波市立砺波図書館」は、大屋根の下の本に囲まれた大空間が魅力であり、景観・計画・技術・環境など、現代の公共施設に求められる要件を高い水準で満たしていました。
住宅部門では、新築・改修を問わず、施主の夢の実現に応える設計者のデザイン手法の違いを見比べることができました。優秀賞に選ばれた「クラハウス」は、明治期・昭和期の土蔵空間に居住空間を挿入し、さらに令和の表現を付加することで、時間軸を挿入された住空間の魅力を感じました。入選に選ばれた「庭を眺める家」は、伝統的日本住宅の部分改修ですが、伝統的表現の良さを次の時代にも継承しようとした姿勢やその技術が評価されました。
入賞にはなりませんでしたが、子供たちが楽しめる様々なアイディアを盛り込んだ「ナツドマの家」や、地方都市の建設会社の社屋イメージを開放的な空間に変えようとした「株式会社藤井組新社屋」も優れた作品でした。
優れた建築に百点の答えはありません。建築の評価は、時代背景や場所性、見る人の見識により異なります。一つひとつの作品の背後には図面や写真では表現できない様々な苦労があったはずです。現地審査での質疑応答から、この時代、富山県という場所で関係する方々が何を夢見て様々な困難を克服されたかを見極めようとしました。現地審査に常連のように説明に来られている設計者の熱い思いを聞いていると、富山県建築文化賞に応募してアピールできることが、富山県で頑張る設計者の一つの目標になっているように思いました。

【審査委員長 蜂谷 俊雄】

 一般部門

優秀賞 花水木ノ庭ー広場路の長屋ー

所在地
富山市南田町1-4-3
建築面積
258.39m²
延床面積
317.65m²
竣工
2020年6月16日
建築主
沼 哲夫、沼 節子、沼 俊之
設計
合同会社 dot studio 一級建築士事務所
施工
前田建設㈱

講評

応募書類を見たとき、最初は花水木通りに面した落ち着いた街並みに違和感なく埋め込まれた建築の、それでいて個性的な内部の空間構成の面白さに目が行きました。しかしその後、実は埋め込まれたものの核心が、建築物そのものというよりも、むしろ建築と街との新たな関係性、さらに言えば、街に集う人々との新たな関係性、そのつながりの質を生み出す仕掛けにあると知って驚きました。1階の正面に店舗があり、その奥側に駐車スペースとイベントなどに使用できるシェアスペースが設けられています。そしてこれらが「広場路」と呼ばれる空間でつながっています。広場でありながら車路であること、それは車の出し入れをするたびに、広場を使っている人たちに場所を空けてもらわなければならないことを意味します。そのちょっとした不便が、会釈だけの他人めいた関係性でなく、同じ空間を分かち合って使う者同士が声をかけ合い譲り合う共感性、時にはそれがきっかけで一緒にイベントや会話を楽しむ、そういったつながりを生み出す仕掛けとなっています。住まいとして適切にプライベートを守りながら、人と人をつなげるさまざまな工夫が実体の建築空間を通して表現されています。そしてこの建築が引き寄せるかのように、近隣には新たな店舗が生まれ、人々の往来も増えつつあるとのこと。こうして街に撒かれた種が、今後さらに美しい花を咲かせて豊かな実を結んでいくことを楽しみにしています。

入選 砺波市立砺波図書館

所在地
砺波市幸町4-1
建築面積
2819.48m²
延床面積
3342.62m²
竣工
2020年7月30日
建築主
砺波市
設計
三上建築事務所・押田建築設計事務所建築関連業務共同体
施工
佐藤工業・砺波工業共同企業体

講評

砺波市の中心部で、チューリップ公園や四季彩館、文化会館、砺波高校などの観光施設や文教施設の近くに新たなランドマークとして誕生した市立図書館。
館内は、緩やかに弧を描く杉板の乱張りで仕上げた一枚の大天井で覆われ、西側1階の閲覧室から東側2階の学習コーナーに至る大空間は、荘厳さを醸しながらも暖かい雰囲気で来訪者を包み込みます。
外に出て国道156号側から外観を眺めると、水平ラインを強調したガラスの連窓が外部と内部の一体感を生み出し、明るく来訪者を迎え入れます。この建物の特徴である、捻じれた曲面の屋根は全体的に緩い勾配で、黒を基調としたシックな仕上げにより圧迫感を全く感じさせず、中に大空間があることを不思議に感じます。
空調には地中熱利用のシステムを採用し、バックヤードを除く大部分の空調エネルギーを地中熱で賄い、環境にも配慮したサスティナブルな施設となっています。
運営面では新しい蔵書の検索システム導入や、講演会・朗読会など各世代が参加できるイベント開催など積極的な活動で、開館5ヶ月で来館者10万人を達成したということです。この図書館がこれからも永く市民に愛される、新しい文化の発信拠点になってくれると確信しています。

住宅部門

優秀賞 クラハウス

所在地
滑川市常磐町
建築面積
156.45m²
延床面積
216.35m²
竣工
2020年8月30日
建築主
法澤 龍宝
設計
㈲法澤建築デザイン事務所
施工
㈲法澤建築デザイン事務所

講評

空き家や朽ち果てた家の増加は、富山はもちろん、日本じゅうで大きな問題となっています。土蔵は厚い土壁に覆われメンテナンスや補修しにくく、非常に多くの土蔵が、壁の一部が崩落したり、周囲を覆っているトタンが朽ち果て、内部に残されているモノとともに、時間が止まったかのようにひっそりと建ち続けています。
「クラハウス」は、この問題に正面から対峙し、土蔵や古民家を時代を超えて如何に継承していくか、そのひとつの手法を明確に示しているものです。
設計者は、明治・大正・昭和を経てきた建物群の補修の相談を受け、所有者と相談の上、最終的には土地と建物を自ら取得し、単に仕事というだけでなく、家族やくらしをかけてリノベーションしたのです。
計画にあたり、建物と周囲のまちの歴史的な変遷をしっかり調査・記録し、その時間の流れの延長としてこのプロジェクトを位置付けています。その結果、これは単にかたちだけのリノベーションではなく、時間を盛り込んだ建物と土地と地域の持続可能(サスティナブル)な継承プロジェクトとなっています。
設計においては、空間構成から素材に至るまで、古いものを再現するのではなく、新しい対比するものを加えることで、対比的調和が実現されています。例えば、土蔵内部に新たな構造面を独立して設けることで構造・法規上の問題を解決しながら、土蔵の古い壁を残し、新旧の壁の間に時間を超えた空間が生み出されています。

入選 庭を眺める家

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所在地
高岡市出来田
建築面積
327.10m² 改修部分:114.00m²
延床面積
327.10m² 改修部分:114.00m²
竣工
2020年6月8日
建築主
瀬尾 良信
設計
荒井好一郎建築設計室一級建築士事務所
施工
(分離発注工事 代表施工者)當田建築

講評

広さ約100坪の木造平屋建の住宅。建物正面から見て左右の区画は手をつけず、真ん中の区画のみの部分改修です。
改修前は、広大な庭を望む南向きの和室2間と、廊下を挟んで北側にDKや水回りがあり、DKから庭を見ることはできませんでした。改修により、これらの区切りを取り払ったことで、以前は客間や和室からしか眺めることのできなかった庭が、普段の生活空間で愛でられるようになりました。庭に面した南側には、断熱性と意匠性の高い大きな木製サッシの窓が配され、庭が生活の中心へと引き込まれています。外とのつながりや広がりを感じられ、心地よく過ごせる場所となったのです。
印象的だったのは、改修しなかった既存区間と新たな改修区間との境目が、あえて曖昧な空間としてデザインされていること。そこには、既存素材や工法への深い理解と敬意を持ちながら、あくまでも新旧の融合を楽しむブリコラージュ的な感性が漂います。
手を入れるのは最小限ながら、既にあるものの潜在的ポテンシャルを最大限に引き出し、機能性や居住性を増幅させる。これだけレバレッジが効いているのは、建物の声なき声に耳を傾ける謙虚な姿勢、関わった人々の確かな知識と技術があるからこそ。
機知に富む創造性で、今あるものをもっとステキに作り変える。手仕事やものづくりを熟知し、熟練の技を持つ人々だからこそ実現しえた、新しさで古さを駆逐してしまわないリノベーション。新旧のグラデーションが家の可能性をさらに引き出しているのを感じました。